一六七話
商人ギルドの上層部を黙らせることを最終目標に、俺たちは見せしめとして下級商人たちの妨害を果たすという作戦を敢行するべく、エルの都の外側へ向けて馬車を走らせていた。
冒険者ギルドでファグたちに説明したように、強大な力を持つ上級商人たちとの全面対決だけはどうしても避けたいと思っている。
商人の中じゃ下っ端のオルネトですら森を消し飛ばすほどの強スキルを持っていただけに、上位の連中と本格的にやり合えば、商売どころかエルの都自体が危うくなりそうだからだ。
「――んん……ユートしゃまぁ……」
ラビが俺の肩に垂れた兎耳を預けてくる。彼女はちょっと前に元に戻ったものの、疲れ果てたのか寝てしまったんだ。
「……私たちの……二人目の子が産まれましたよぉ……」
「……ちょっ……」
ラビの寝言に俺は耳を疑う。二人目だって? じゃあ一人目の子供は一体誰なんだよ……って、そういや以前にもそんな風なことを誰かが言ってたような。
「ユートパパー、モコも赤ちゃん楽しみー」
「…………」
モコの弾んだ声で俺は全てを思い出した。てか、ファグたちも当たり前のように聞き流してるし、モコが俺の一人目の子供なのは最早既成事実になってそうだ。パパってなあ、自分はこれでもまだ高校生なんだが……。
「なあ、ユート。ちょっと気になってることがあるんだが」
「ん、なんだ、ファグ?」
「例の眠い眠い病はもう治ったのか?」
「ん? 眠い眠い病って?」
「ほら、何かイベントがあったあとはよく欠伸して寝てただろ?」
「あっ……」
そういや、エルの都へ行くまではそういう設定だったな。まあ分身の性能が今よりずっと低かったから仕方ないんだが、ファグが疑問に思うのもよく理解できる。うーん、弱ったな。どうやってごまかそうか……。
「そんなこともわからないの? ファグってホントおバカさんだよお」
「はあ? なんだよ、ミア。じゃあお前ならわかるっていうのか?」
「うん。エルの都に来てから、僕たちにとって刺激的なことってあまりなかったから、ユートも力が有り余ってるんじゃないかなあ」
「そ、そういやそうだったな。マジ、俺がバカだったぜ……」
「カッカッカ! ファグよ、そう気にしなさんな。頭の中身は鍛えられるからともかく、外側がわしの頭髪のように死に絶えるよりはマシじゃろ!」
「た、確かに、そう言われるとなんかすげー元気づけられるな!」
「さすが、キーンは《太陽の男》なだけあるわね」
「「「「「どっ……!」」」」」
「…………」
なんとかごまかせたみたいだな。俺の力が余ってるから眠くならないんだとミアが勝手に解釈してくれたおかげだが。
それからほどなくして、俺たちの乗った馬車がエルの都の門を出る格好になった。さあ、いよいよここからだ。
商人がどういう場所で奴隷をこき使って仕入れを行ってるか、それは『アンサー』や『ガイド』があればなんとかなるので、馬車でそこまでの距離をある程度詰めたあと、徒歩で『インヴィジブルマン』を使って慎重に向かう予定だった。
ん、そこでプリンたちのところにいる分身に異変があったらしく、そのことを俺に伝えてきた。何か変化が生じたようだ。
『アンサー』によると、商人が奴隷を使って仕入れをやってる場所まで行くには半日以上もかかるってことで、こっちじゃ当分暇になりそうだから行ってみるか。
「ふわあ……。そんな話をしたせいか、眠い眠い病が再発しちゃったみたいだ……」
「ちょっ、ユート、俺のせいかよ」
「あーあ、ファグがそんな話するからだよお。ラビがぐっすり寝てる今こそ、ユートともっと仲良くなれるチャンスだと思ってたのに……」
「ちょっと、ミア。あたしもそう思ってたところなんだから邪魔しないで!」
「カッカッカ、わしならフリーだぞい?」
「「うるさいっ!」」
「ひいぃっ」
「…………」
こっちの分身はしばらく寝かせておくだけで大丈夫だろう。『セイフティバリアー』も張るし、ファグたちに起こされたら戻るってことで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます