一六八話


 ――あれ……?


 俺は『ワープ』でプリンたちの元へと向かったわけだが、そこは泊まっていた高級ホテルの入り口で、俺の分身が見知らぬ三人に囲まれていた。


 どこぞの王子さまなのかと思わせる、マントが似合う長身の凛々しい人物、灰色のマントに大鎌、髑髏の仮面といい死神のような恰好をした小柄な者、鳥のような着ぐるみを身に着けた怪人という、なんとも奇妙な組み合わせだ。


 こいつらは一体どこの誰なんだよと思ったが、よく見てみるとホルン、プリン、エスティアがそれぞれ変装しているのがわかった。


「ねえねえ、ユート、黙ってないで早く答えてっ。プリンの格好、どう思うの?」


 ……なるほど。死神に扮したプリンの台詞を耳にした瞬間、俺は『アバター』に『以心伝心』を使う必要もなく、事情を呑み込むことができた。


 おそらく、こうだ。彼女たちは俺のエントリーのために武闘大会の会場へ付き添うことになり、ガイアス一味に怪しまれないように俺の『アバター』以外変装した。それからさあ出発しようってところで、プリンが自分の格好についてどう思うかを分身に訊ねたってわけだ。


 別に大したことは起きてないように見えるが、なんで『アバター』が俺を呼んだのかは痛いほど理解できる。以前プリンからどっちの服がいいのか聞かれて困ったことがあって、それでこういう類の質問をまたされたら俺を呼ぶようにと分身に『命令』しておいたからな。


 そうだな……一応、『アンサー』でどう答えるのがいいか訊ねてみるか。


(プリンの質問にはなんて答えたらいい?)


(キャロット&スティック)


 なんだって? キャロットとスティックってことは、ニンジンと棒? つまり、飴と鞭のような返答をすればいいんじゃないかな。そういうわけで、俺は分身に成り代わって回答することに。


「んーと、おかしいけど、おかしくない感じかな」


「そ、それって、もしかしてプリンの真似なの!?」


 あ、そういやプリンがよく言う感じの矛盾した発言だったな。


「ああ、そうだよ」


「ふんっ……プリンのこと、そんなに真似をするほど気にしてくれてたなんて、嬉しくないけど嬉しいの! ぷいっ」


「……ははっ……」


 早速いつもの台詞が飛び出したと思ったら、ホルンとエスティアが感動した様子で拍手していた。なんだ?


「さすがはユートどの……。プリンさまは変装をする際、死神がお気に入りということでこういう格好をするのでありますが、どう思うかという質問に対し、いつもそれがしが正直におかしいと答えると『そんなにおかしくないの!』と不機嫌になられるのあります……」


「ユートさま、わたくしめもそうでして、正直におかしくないと回答しても、『死神なんだからおかしいに決まってるの!』と言われて、同様に不機嫌になるので困っていました……」


「な、なるほど……」


 だからああいう答えが最適解だったってわけだ。てか、そういや彼女の称号の中に《死神姫》ってあったのはこういうことなんだな。


「でも、なんでプリンは死神の格好がお気に入りなんだ?」


「ふっふー。それはねえ……可愛いからなのっ」


「か、可愛い? その髑髏も含めて?」


「むしろ、この髑髏がポイントで、可愛くないけど可愛い感じなの……クククッ……」


「…………」


 なるほど。そう言われてみると可愛い気がしないでもない。見た目も小柄な死神だし、可愛くないけど可愛いっていう彼女の矛盾する言い方がしっくりくる感じだ。


「それじゃー、会場へ向かうのっ!」


 プリン王女が意気揚々と大鎌を振り上げたのを合図に、俺たちは目的地へと向かった出発するのだった。

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