一六三話


「「「「「え、ここにギルドマスターが……?」」」」」


「あぁ? おいてめぇら、まさかこのオレを疑ってんのか!?」


「「「「「い、いえっ……」」」」」


 スーパーラビに睨まれてファグたちが黙り込んだわけだが、俺は彼らの気持ちもよくわかった。


 というのも、兎車が停止した場所は周囲に何もないただの空き地だったからだ。それも、雑草がこれでもかと覆い茂っていてまともに手入れもされてない、そんな荒涼とした場所だ。


 まさに人気のなさを代表するようなところだし、彼らが疑いの目で見てしまうのも無理はない。


「まさか、ユートまでオレを疑うんじゃねえだろうな……?」


「ん、いや、俺は信じるよ」


「ひゃっはー! さすが、ユートはオレの旦那なだけあるぜ! いっちょ、ここでおっぱじめるか!?」


「ちょっ……」


 ただでさえビキニアーマーっていう派手な格好なのに言動までそうなったら手がつけられない。スーパーラビは相変わらず存在感がありすぎる。


 とにかく、彼女がここまで自信満々に訴えるんだからこの空き地にギルドマスターがいるのはほぼ間違いない。おそらく、強力無比な隠蔽スキルによって、いないように見えてるだけなんじゃないか。すなわち、偽仮面が持っていた【幻覚】スキルのような効果があると解釈したほうがよさそうだ。


 ここで問題なのは、それをいかにして破るかということだ。探している人物が間近にいることがわかっても、可視化すらできない状況のままならまったく意味がない。


 ということで、俺は『アンサー』の魔法を使うことに。どこにいるかは相手のスキル効果で遮られてわからなくても、それを破る方法なら間接的なものだから教えてくれるはずだ。


(ここからどうやってギルドマスターを探し出せる?)


(テラー)


 よし、回答が来た。ってことは、ギルドマスターを怖がらせろってことだよな。つまり、相手の動揺を誘うことにさえ成功すれば隠蔽スキルを破り、表に引っ張り出せるかもしれないってことだ。


 ただ、そのまま回答通りに『テラー』を使えばいいのかどうかは微妙なところだ。なんせ、『アンサー』が直接的には通じなかったほど深く隠れてる相手だから、そこに恐怖を伝わらせるには一体どうしたら……。


 って、そうだ。俺はを思い立ち、早速みんなに教えることにした。


「「「「「――商人に変身できる魔法を使う……?」」」」」


「そうそう。以前、馬車で俺たちを追いかけてきたあのオルネトっていう商人だよ。それに化けて、ギルドマスターを脅してやるんだ」


「「「「「なるほど……」」」」」


 やつに遭遇してないラビとモコは若干怪訝そうだが、一応商人ってことで俺が言わんとすることは伝わったらしい。


 そういうわけで、俺は『オールチェンジ』を使って自分を含めてオルネトの格好にした。一応、声量が少しでも上がるようにと『アバター』も一人紛れ込んでるが、これだけいればバレないだろう。


 ギルドマスターがオルネトのことを知ってるかどうかまではわからないが、この商人独特の体型と傲慢な雰囲気を持つ男が脅してくるなら、期待以上の効果はあるんじゃないかとみている。


「「「「「――せーのっ……出てこいっ、ギルドマスターッ!」」」」」


 俺たちは息を合わせ、空き地の真ん中でそう叫んだ。もちろん『テラー』と『ラージスモール』も使ってあるから、相当に響いたはずだ。あと、近所迷惑だと思うので『サウンドカッター』という新しく作った防音魔法も併用しておいた。これはこの限られた一帯でしか音を響かせないためのものだ。


 さあ、これならどうだ……? お、周辺の視界がぐにゃりと曲がったかと思うと、そこに立派な庭と屋敷が現れた。景色ごと隠れられるとは、さすがだな……。

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