八十話


 あれから2年1組の教室へ帰還した俺は、異世界の夕陽を浴びながら愛用の椅子に座っていた。


 もちろん、天の声や虎野たちの会話を聞くためだ。


『皆さまにお知らせがあります』


 お、早速聞こえてきたわけだが、なんか普段と違って一層神妙な感じなこともあって周囲からざわめきが起きる。悪い知らせかとも思ったが、それなら最初に言うはずだしなあ。一体どんな話をするつもりなんだろう?


『以前にも言ったことですけど、普段の行いには気をつけましょう。私から申し上げることができるのはそれくらいです。もし、あなた方が天罰というものを信じるなら……。もう、もいるみたいですけど。それとです、仮面の英雄さま、どうかお体には気をつけてくださいね。いつもすぐ近くで応援してますから。それではっ……!』


「……ははっ……」


 手遅れの方々、か。さて、誰のことかな。まあなんとなく想像はつくが。


 あと、天の声の人、どうやら旧校舎で隠れて俺のことを応援してくれてたみたいだな。今度、探してみようか。まさか影山の言うことが的中するとは。


 そうだ、虎野たちの反応を窺ってみよう。


「ふむ、天の声の主はまさに口だけだな。天罰だと? やれるものならばやってみるがいい」


「ボスウ、おいらもそう思うぜ! 脅しなんかやっても無駄だあ」


「ホント、説教好きみたいよねえ。ウザッ。いっつも偉そうにしちゃって。救世主を探してるっていうけど、それならまずあんたが自分でやれば? 毎回人に命令するだけで、何様のつもりなの?」


「…………」


 やつらは相変わらずお前が言うなって突っ込みたくなるような毒を吐いてるが、永川と影山がいないことでその成分が薄くなってる感じだな。


「そういえば、影山のやつを見ないが、一体どうしたのだ?」


「それがよ、ボスウ。あいつ、まだ帰ってきてねえんだ」


「ふむ……永川といい、もしや逃げたか。やつらの存在などどうでもいいが、部下としての役目を放棄したのだから、見つけ次第俺様が処刑してやるとしよう」


「虎君、あんなのやっつけちゃって! ぶっちゃけ影山君ってさ、なんかあたしに気があるっぽくて苦手だったんだよね。こっちに気が全然ないってわかって自殺でもしたのかな? 超ウケるー」


「「「ワハハッ!」」」


「…………」


 まあ不良グループの絆なんてこんなもんか。ちなみに、永川もそうだが影山もこの教室にいるんだ。


 お、早速、影山のいる場所付近でヒソヒソと生徒たちの声が上がってるから聞いてみよう。


「ねえねえ、このみたいなの何?」


「ん、なんだこれ。今までなかったよな?」


「クソッ、擦っても取れねえよ」


「やあねえ。モンスターの血とかじゃ?」


「てか……これって、なんか人影みたいな感じしない?」


「「「「「ひえっ……!」」」」」


(……クライヨ……コエエヨ……イテエヨ……)


 話題の不気味な人影に『テレパシー』を使うと、やつの悲鳴に近い心の声が俺の脳裏に響いてきた。


 どうやったのかというと、まず影山の影を『ステッチ』という新魔法で縫ったあと、『マテリアルチェンジ』でやつ自身を影縫いした部分の床に変えてここに移植したってわけだ。


 これなら影になったも同然だろう。何も見えない、喋れない、聞こえない。誰かに踏まれ、そのたびに痛みだけを感じる哀れな影。あまりにも惨めで、まさに成仏できない幽霊のような存在だ……。

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