七九話


「ク、クソ優斗……」


「ん? おい、クソだと?」


「あ……い、いや、すんません。優斗さん、俺と組まねえか……?」


「へ?」


 影山のやつ、さん付けするのはいいとしても、この期に及んで俺と組もうって……自分がどういう立場なのかわかってるんだろうか。


「おい、影山……いや、、お前、今まで散々俺を甚振ってきて、よくそんなことが言えるな?」


「うっ……」


「そもそも、お前なんかと組んだところで俺にメリットとかあるのか?」


「あ、ある……!」


「へえ。で、どんなメリットだ?」


「それは……優斗さん、あんたにとって最高に得することだ」


「得すること? てか敬語使えよ、クソ聡志」


「あ、はい。あの、優斗さん、ほかのやつに聞かれたくねえですので、ちょっと耳を貸してくれ……いや、もらえねえでしょうか……」


「おいおい、二人きりの状況で、しかも旧校舎の一番端にある教室だぞ? 普通に喋れよカス。俺たち以外誰も聞いてないんだからさあ」


「い、いや、スキルとか使ってその辺に隠れてるやつとかいるかもしれねえですし……」


「……もう一度聞くが、お前なんかと組むことで本当にメリットがあるのか?」


 そこで俺は、正直にお気持ち表明してしまう例の魔法を使うことにする。


「メリットなんかあるわけねえだろ……。俺に近付いてきたところで間抜けなクソ優斗を仕留めるつもりだしよ……あ、あれ……? なんで……」


「やっぱりな。白状させる魔法『コンフェッション』を使ったんだよ」


「ク……クソッ! メディアナ、早くこいつを石化しろっ!」


「ああ、そいつのことなら、もうダメだと思うぞ?」


「え……?」


「気付かなかったのか? お前がデッドリダガーで俺を刺そうとしてきたとき、そいつを普通のナイフと交換してやったんだよ。んで、それでついさっきメディアナを傷つけてやったってわけだ」


「グ……ググッ……」


「メ……メディアナアァァッ……!? し、死んじまった……ち、畜生……」


「畜生だって? それはクソ聡志、お前自身のことだろ。さあ、覚悟はできてるんだろうなあ」


「う……うわあああぁぁっ!」




――影山聡志の視点




「……ハァ、ハァ、ハァッ……」


 一心不乱に旧校舎の廊下をひた走る影山。まもなく新校舎に出た際に恐る恐る振り返ると、既に如月優斗の姿はなかった。


(よ、よし、上手く逃げ切れた……。それにしても、まさかあいつが仮面の英雄だったとはよ。けど、あのお人よしのアホなら学校を救ってるのもうなずけるし、まだ勝ち目はあるはず……)


 影山はやがて2年1組の教室へ辿り着くと、表情をパッと明るくさせた。そこには行方不明のはずの永川を含めて、彼の仲間が全員揃っていたからだ。


「ふむ、どうしたのだ、影山?」


「どうしたの、影山君?」


「どうしたってんだよお、影山?」


「どうしたというんですか、影山?」


「……そ、それが、なんとあのクソ優斗が仮面の英雄だったんだ……」


「「「「っ!?」」」」


「信じられねえ話だと思うだろうが、この目で見たから確かだし、もう時間がねえ。頼む、俺に力を貸してくれ……!」


「「「「……」」」」


「ボ、ボス? 近藤? 浅井さん? 永川……?」


 影山の目が見開かれる。仲間たちの姿が消えたかと思うと、そこは旧校舎の教室で、自分は仰向けに横たわった状態だったからだ。


「え、あれ、なんで――」


「――どうやら良い夢が見られたみたいだし、よかったな」


「っ!?」


 如月優斗の声がしたことで起き上がろうとした影山だったが、それが全然できないことで、自身の手足が根本からなくなっていることに気付いた。


「……そ、そんな……い、嫌だ……」


「残念ながら、これが現実なんだよ、クソ聡志。欠損は治してないが、治療はしてやったから心配するな」


「ご、ごろじで……」


「ん?」


「ご、殺して、ください……もう、こんな体じゃ生きていたくねえですから……」


「おいおい、殺してくれだなんてクソ聡志らしくないな。命は大事にしないと」


「……ろっ、どうもずびばぜんでぢだ……ゆうどさん……だがら……らぐにごろじでくだじゃい……ひっく……ぎっ……」


 顔を強く踏みつけられ、顔を歪ませる影山。


「オラッ、クソ聡志。俺の靴で涙を拭いてやるからありがたく思え。残念ながら、死にたいっていう願いは聞き入れられない。お前は永川のように永遠に生きてもらう。苦痛を味わいながら、な……」


「……えっ……?」

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