七八話
「あ、浅井さん……!」
「っ!?」
旧校舎の一番端にある教室に入った途端、影山が抱き付いてきた。
おいおい、ボスの恋人なのに。こいつって意外と大胆なんだな……。
「お、お、俺……浅井さんのことが、ずっと前から好きだった……」
「…………」
その上、愛の告白までしてきやがった。おえっ、吐き気がしてくる。よーし、それならこっちも本当の気持ちを打ち明けてやろう。
「……そ、そうなんだ。影山君の気持ち、よくわかったよ。あたしは、影山君のこと――」
ここでやつを焦らせるべく、勿体ぶるのを忘れない。
「あ、浅井さん……?」
「――だい、だい……大っ嫌い……!」
「え、えぇ……!?」
やつのショックを受けた顔が面白すぎて、俺はしばらく自分の笑い声を『サイレント』で封印した。
「もう一度言うね。あたしは影山君のこと大っ嫌い。このこと、虎君にチクっちゃうから覚悟しといてね」
「ぐっ……そ、そうはさせねえ……! 手に入らないならいっそ……殺してやる!」
「おっ……」
影山がデッドリーダガーを取り出して襲ってきたが、こんなの当たるわけないだろ。やつの動きなんてスローモーションのように見えるし。
「すばしっこいが、無駄だぜ……」
ん、やつがニタリと笑った。なんだと思ったら体が動かなくなったから、【暗殺者】のテクニック『威圧』を使ってきたか。
そこで、『ワープ』を使って移動してやる。【魔法作成】のレベルが上がってるから、近い距離ならほぼ無詠唱で飛べるんだ。
「な、なんでこんなに素早く動けるんだ……はぁ、はぁ……ク、クソッ、逃がすかよ! メディアナ、石化しろ!」
メディアナ? あ、そうか、こいつが飼ってるメドューサのことか。
「了解、ボス」
俺の前に立ち塞がったメデューサの目が怪しく光る。
「へっ、もうお前は一切動けねえし、ただの石像だ……」
確かに、浅井六花の姿をした俺の『アバター』を『コントロール』で動かしても動かないし、石化したことは間違いないようだ。
ちなみに、本体の俺は【隠蔽】を使って隠れたところだ。影山は石化した浅井の分身に抱き付くと薄気味の悪い笑みを浮かべてみせた。
「はぁ、はぁ……あ、浅井さん、もう逃さねえ……。石化が解けたら、刺し殺して俺だけのものにしてやる……」
「…………」
わかってはいたが、色んな意味で危ないやつだな、こいつ……。
「――え、あれ、浅井、さん……?」
『アバター』を消したら、影山がオロオロと周囲を見回し始めた。早速からかうべく『ボイスチェンジ』と『テレパシー』で野太い男の声をかけてやる。
『お前は騙されたんだよ、バカ』
「っ!? だ、誰の仕業だ!?」
そろそろ姿を現してやるかってことで、俺は自分に『ディスペル』を使って【隠蔽】や『ボディチェンジ』を解除してみせた。
「なっ……!? って、なんだ……誰かと思ったらクソ優斗じゃねえか。この辺で隠れてたのか?」
「うん、隠れてたよ」
「相変わらず救いようのないチキンだなあ? 俺は今、お前なんかの相手をしてる暇はねえんだから、邪魔するな。ママゴトでもやってろ、雑魚……」
折角現れてやったっていうのに、俺を舐め切って相手にしない影山。まあそりゃそうか。心の底から見下している相手が敵だとは思えないだろうしな。
「影山君、あなたは騙されたのよ」
そこで俺は『ボイスチェンジ』で浅井の声真似をして、自分が騙していたことを影山にアピールしてやった。
「そ、その声は……!」
「ようやくわかったか。俺だよ、お前を騙していた犯人は」
「ま、まさか……仲間を連れて復讐しにきたっていうのか……!?」
はっとした顔でキョロキョロと周りを見渡す影山。
「仲間? そんなものはいない。ちなみに、行方不明の永川は俺が始末した」
「ク、クソ優斗、お前、それ以上出鱈目抜かすようなら殺す――」
「――これを見ろ」
手っ取り早いので、俺のスマホのステータス画面を影山に見せつけてやる。永川のときは理解が遅かったからな。
「……なっ、なっ……」
それを目にして、信じざるを得ないので見る見る青ざめる影山。これじゃ青山だ。
「これでわかったか? 今までよくもやってくれたもんだな……」
そういうわけで、俺は例の仮面を装着した。いよいよ処刑タイムの始まりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます