七七話


 俺は『ガイド』の魔法を使用し、現れた矢印を辿って虎野竜二と浅井六花の所在地へと向かっていた。


 あいつらが二人でどこかへ行くときは、恋人同士だしいかがわしい行為をするときだっていうのは前々から知ってたんだが、どこでやってるかまでは知らないんだ。


「――ここなのかよ……」


 やがて、俺が到着した場所は美術室の前だった。おいおい、こんなところでやってたのか。まあ今は誰もいないってことで場所をここに変えただけかもしれないが、それにしてもふざけたやつらだ。


「…………」


【隠蔽】に加え、念には念を入れて『サイレント』を使ってこっそり覗き込むと、ゴーレムやヴァンパイアに見守られる中、一糸纏わぬ姿の虎野と浅井が連結していた。


「ンン……と、虎君、イイ……」


「ぬ、ぬふうっ……! す、すまん、六花。もうイッちまった……」


「うぇぇっ……!? んもう……アレはおっきいのにいつも早すぎ……」


「ふむ……ぶん殴るぞ?」


「ご、ごめん……」


「…………」


 なんだよ、もう終わったのか。教室に帰ってきたら困るので、『ストップ』をかけておくか。ついでに窓を全開にして、やつらの姿をみんなに見てもらおう。いわゆる展示品というやつだ。美術室でヤるくらいだから問題ないだろう。


 そうだ、ついでに『グラフィティ』で面白いものが美術室にあるぞと派手に宣伝しといてやる。


「「「「「――ワハハッ!」」」」」


 まもなく、生徒たちが蟻のように群がってきて美術室は笑いの坩堝と化した。ただ、虎野たちは恨みも買ってそうなので、殺されないように一応『インヴィジブルウォール』で守っておいてやるか。


 さて、目当ての足止めは完了したので、第二段階に移行するとしよう。


 俺はトイレへ直行すると、このために作ったばかりの『ボディチェンジ』の魔法を使って浅井に成りすますことに。


「うえっ……」


 鏡に映った自分の姿を見て俺は顔をしかめた。何もかも浅井六花そのものだったからだ。


 でもこれなら偽物とは思われないはずだってことで、我慢して教室へと向かう。


 お、いたいた。影山はメドューサと一緒にいて、ボソボソと聞き取れない声で何やら会話している様子だった。近藤も何かを盗みに行ってるのかいないし都合がいいな。念のためにステータスを確認するとしよう。

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 名前 影山 聡志


 HP 186/186

 MP  79/79


 攻撃力 280

 防御力 155

 命中力  98

 魔法力  79


 所持装備

 デッドリーダガー

 チェインメイル


 所持スキル

【暗殺者】レベル7

 

 所持テクニック

『威圧』『ハイド』


 称号

《幽霊男》《ストーカー》

__________________________



「…………」


 なるほど。『ハイド』は自分だけでなく仲間にも使用可能で、MPがある間は隠蔽状態が持続されて無敵になるが、その間は何もできなくなるとのこと。


《幽霊男》や《ストーカー》という称号も、いかにも存在感のない上に陰湿な影山らしいな。次に調べるのはこいつの仲間のメドューサだ。

__________________________


 名前 メディアナ

 種族 悪魔族


 HP 2000/2000

 MP 1000/1000


 攻撃力  150

 防御力  230

 命中力  120

 魔法力 1000


 所持能力

『石化』


 ランク 中級

__________________________


 所持能力の『石化』だけ注意すればいいモンスターだな。さてと、若干緊張してきたが教室に入るか。


「あ、あれ? 浅井さん。一緒にいた虎野――いや、ボスは?」


「それがね……俺――い、いや、あたし、虎君と喧嘩しちゃって……」


「え、マジか……」


 影山のやつ、怪訝そうに眉をひそめてるが、口元が笑ってるのを隠せてないぞ。


「で、喧嘩って何が原因なんだ、浅井さん」


「そ、それが……」


 しまった、そこまで考えてなかった。うーん、いかにも虎野がやりそうなことといえば……そうだ、暴力だ。以前、虎野と一緒に教室へ帰ってきたとき、浅井が右目に痣を作ってきたことがあったから間違いない。


「あのね……虎君の暴力とか激しいから、それでもうやめてよって口論になって……」


「ま、まさか、またやつに殴られたのか……?」


「う、うん。お腹を……」


 俺は今更ながら痛そうに腹を押さえてみせたが、影山は心配そうな顔を見せたことから疑ってはいない様子。


「クソッ……このままじゃさ、マジでいつかあいつに殺されちまうぜ、浅井さん……」


「う、うぅ……そうよね……。ちょっと、ここじゃなんだから、場所変えましょ。こんな風に話してたら、あたしたちの仲を疑われちゃうかもだし」


 俺はこのタイミングでわざと胸元をはだけてやった。


「そ、そそっ、そうだな、やつに見つかったら危険だし……」


 俺の胸元を覗き込んだ影山の喉がぐるりと動くのがわかった。こいつ、下心丸出しだな。


 そういうわけで、俺たちはひっそりと旧校舎へと向かった。影山は目立たないように『ハイド』で時折俺たちの姿を消しつつ、歩く際はメドューサで俺の体を隠してくれる気の使いようだ。いいぞ、今のところ作戦は至って順調に進んでいる……。

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