第三章

八一話


 あくる日の朝、俺はいつものように天の声を聞くべく、自分の教室までやってきたところだ。


「ねえねえ、今日の天の声、どんなこと言ってくるかな?」


「さー」


「どうせ説教垂れ流しか、片思いの仮面の英雄についてじゃね?」


「だろうねー。そんなことより、そろそろ食料の補充とかしてほしいよねえ」


「…………」


 2年1組の生徒どもときたら、明るい未来なんて来ないことも知らずに賑やかで、束の間の平和を満喫している様子。


 永川と影山を処刑したことにより、復讐の対象はクソ教師の反田、それに不良グループの虎野、浅井、近藤、それ以外のクラスメイト全員を残すのみだからな。


 とにかくメインディッシュの四人は先に始末して、最後にクラスメイトたちを派手に地獄へ突き落とそうかと考えている。


 何故かっていうと、先に大勢いるクラスメイトたちを始末すると、不良グループの警戒心は相当に強いものになってしまうだろうからだ。


『ふわあ……あ、失礼いたしました!』


 お、来たと思ったら、今日の天の声は欠伸から始まった。どうやら寝不足気味らしい。察するに、夜遅くまで何か考え事でもしてたんだろうか?


『食料の補充をそろそろしようと思いますので、石板――スマートホンの画面をご覧ください』


 食料の補充か。まるでさっきの会話を聞いてたみたいな感じだ。天の声の人、こんな時間帯からこの教室近辺にいるんだろうか? まさかな……。


 っと、そうだ。食料を貰えるなら一応貰っとくかってことで、俺はスマホを取り出した。


「如月いっ、没収の時間だあ」


「ちょっ……」


 近藤のやつにスマホを没収されてしまう。しまった、没収役の永川がいないのですっかり油断していた。


「おい、何か文句があんのかよお!?」


「い、いえ……」


 ただ、食料はまだあるし、別に残り物でも……って、そうだ。俺は大事なことを思い出した。影山に見せるために【隠蔽】を解除したままだったからまずい。もしやつにステータス画面を見られたら――


「――な、なんだこりゃあ……」


「…………」


 近藤の顔が驚きで満たされるのがわかる。あーあ、既にステータスを覗かれてしまったようだが仕方ない。ここで見られまいと何かアクションを起こせば、今までやったことが俺の仕業だとバレる可能性が高いしな。


 こうなったら口封じのために『サイレント』を使って殺すしかないだろう。


「画面が全然見えねえんだよお。如月のスマホ、ぶっ壊れてんじゃねえのか」


「えっ……」


 近藤がつまらなそうにスマホを投げつけてきたので見ると、画面が真っ暗になっていた。まさか、本当に壊れてしまったのかと思うも、すぐに画面が表示される。


 あれ、直った? 妙だな。このタイミング、まるで第三者が意図的に画面を見えなくしたみたいだ。ま、まさか……。


 食料はまだ沢山あるし必要ないってことで、俺は立ち上がるとすぐに廊下へ出た。すると、突き当りから階段のほうに人影が移動するのがわかった。やっぱりそうだったか。


『ワープ』でそこまで飛ぶと、一階へと繋がる階段の踊り場に、小柄な少女が背を向ける格好で立っていた。もう逃げようともしないってことは、俺が来るのを待っていたわけか。


「君は……天の声の人だよね?」


「……は、はい。もうバレちゃってますよね……」


 やはりそうだ。観念した様子で少女が振り返ってきたことで、俺は確信した。やっぱりあの子だ……。

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