一二二話


「ボ、ボ、ボボボッ……ボスウッ、い、い……生きておられたのかあっ……!」


 俺は少しばかり感動していた。あの近藤がこれほどまでに縮み上がるところを見られるとは。


 まあよく考えたら、校長の息子で殺人経験もある上、ボスとして長く君臨してきた男がこうして帰ってきたんだから当然っちゃ当然か。


「近藤、久々だな。元気にしていたか?」


「げ、元気にしてた――わ、わけねえって! お、おいら、心配しすぎてちょっと痩せちまったんだあっ。ボスウ、帰ってきてくれて、本当によかったあぁ……」


「ふむ………だがその割りにお前、俺様に代わってボスになっただけでなく、六花の彼氏になったらしいなあ?」


「うぇっ……!? な、ななっ、なんでそのこと――」


「――どうやら本当らしいな……?」


「あっ、い、いやっ、違うんだあっ。おいらがボスになったんじゃなくて、その座が勝手に転がり込んできただけで、ボスが帰ってきたらすぐに譲るつもりだったし、浅井六花に関しても、その場のノリっていうか、冗談で恋人同士になったっていうかあ……」


 なんとも苦しい言い訳だな。冗談で恋人同士になれるなら結婚も同じようなノリでやりそうだ。


「おい近藤、冗談で他人の恋人と付き合えるものなのか? 殺されたくなければ今すぐ答えろ」


「じょ、冗談っていうかあ、ボスと浅井の運命的な関係と違って、ガキのおままごとみてえなもんでまだキスさえしてねえし、おいらなんか相手にもされてねえって……」


「ふむ、そうだったのだな……」


 まだここで殺すつもりはないから信じる振りをしてやったが、高校生の身分で飲酒や喫煙だけでなく窃盗も平気でやるやつに対して、キスさえしてないなんて本気で鵜呑みにするわけないだろ、ボケ。


「そ、それよりボスウ、今までどこに? 影山と相打ちして果てたんじゃあ?」


「ん? やつと相打ちしたほうがよかったのか?」


「あ、いや、とんでもねえっ! ボスのご帰還においら、感無量っすうううっ!」


 近藤が顔をしわくちゃにして叫ぶ中、俺は昔を思い出すように遠い目をしてみせた。


「よく聞け。俺様はな……影山をこの手で殺害したときに油断して深手を負ったが、色々あってなんとか生き残り、こうしてようやく復活できたというわけなのだ……」


「そ、そうだったんだなあ、ボスウ、泣けるぜえ……あ、そうだ、今頃浅井のやつも待ってると思うんで、ボスが姿を見せたらきっと喜ぶ――」


「――いや、待て」


「へ……?」


「六花とはいつでも会えるから後回しでも問題ない。その前に近藤、お前にがある。ついて来るのだ」


「み、見せたいものお? な、何かなあ」


「来ればわかる」


 俺はトイレの個室から出ると、わざと足を引きずりながら歩くことに。


「ボ、ボス? どうしちゃったんだあ?」


「……影山との戦闘で不覚にも膝をやられてしまってな。まだ完全には回復しきっていないのだ」


「そ、そうなのかあ……」


 近藤のやつ、いかにも興味深そうに俺の膝を見てきたのが面白い。隙あらば弱点を突いて仕留めてやろうって魂胆が見え見えなんだよ。まあ今更ナンバー2の座に甘んじたくはないんだろう。


「おい、リザードッ、しっかりボスをお守りするんだぞおっ!」


「…………」


 近藤の命令に対し、従魔のリザードマンが無言でうなずく。ちなみに浅井の仲間のヴァンパイアに関しては『スリープ』で眠らせ、トイレの別の個室に浅井と一緒に放置してある。


 俺はすっかり近藤を信頼した振りをしつつ、やつのほうを振り返りもせずに目的地へと向かって歩き始めた。


 さあ、準備は整いつつある。あとは近藤が手を出してくるのを虎視眈々と待つだけだ……。

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