一二三話
「…………」
新校舎と旧校舎を繋ぐ渡り廊下に差し掛かったとき、俺は自分たち以外に誰もいないことを確認して『ループ』を使った。
これから始まるお楽しみの時間を第三者に邪魔されないためだ。これで、俺たちは実質二人きりってことになる。
だが、近藤のやつは依然として何もしてこない。そこはやはり、俺が手負いとはいえボスだってことで慎重になってるのか。
なら、相手の野心を促してやろうってことでふと足を止めた。
「うっ……!」
「ボ、ボスウ、どうしたんだあ……?」
「うぬうう……俺様の負傷した足が疼くのだ……グオォッ――」
俺がいかにも痛そうに顔をしかめつつ、右膝を摩り始めたときだった。
「――うりゃあああっ!」
「ぬおっ……!?」
近藤が投げてきたブーメランナイフが膝に直撃し、俺はバランスを崩して倒れた。これが弱点に大ダメージを与えるっていう、やつのテクニック『ピンポイントアタック』なのか。
『アナライズ』でダメージの数値を調べると、83も出ているのがわかった。あらかじめ、膝を絶影剣で切って弱点を作っていたわけだが、道理で少しだけチクッとしたわけだ……。
「へへっ、やったぜ。これでもう動けねえだろおっ!」
「……ぬ、ぬうぅぅっ。こ、近藤……貴様、俺様を裏切るというのか……」
「んなの、当たり前だろおっ!? 虎野竜二ぃ、お前が帰ってくる場所なんてねえ。ボスの座も六花も何もかも、おいらが奪い尽くしてやるんだからなあぁっ――!」
「――クククッ……それはどうかな……?」
「なっ!?」
俺が笑いながら【隠蔽】を使って姿を消してみせると、たったそれだけで近藤はリザードマンの元へ駆け寄り、酷く怯えた様子でキョロキョロと周りを見渡し始めた。
まあ小物がどれだけ威張ってもこんなもんだな。相手が見えなくなるだけでこうしてパニックに陥ってしまうんだ。
「ボ、ボスウ、い、今のはほんの冗談だったんだあっ。だ、だからおいらを許してくれえぇっ」
「…………」
こっちの隙を突いて攻撃してきたのに冗談って……一体どういう脳みそしてんだ。アホすぎてむかついてきたし、そろそろネタバラシしてやるか。
「っ……!?」
俺は自身に『ディスペル』をかけて、【隠蔽】と変身状態を解除してみせた。すると近藤がギョッとした顔を見せたが、俺だとわかって安堵したのかいつもの表情に戻った。
「お、お、お前ぇっ、脅かしやがってえ……。誰かと思ったら雑魚の優斗かよおっ! なんでお前がここにいるんだあ……?」
「あ、うん。その辺に隠れて様子を見てたんだよ。どうしたんだい、そんなに慌てて」
「うるせええっ、ぶっ殺すぞおっ! 雑魚のお前なんか相手にしてる暇は――」
「――フンッ。雑魚はお前のほうだろう、アホの近藤めが」
「ぬぁっ……!?」
俺が虎野ボイスでそう言い放ってみせると、近藤はしばらく周りを見渡したのち、ようやく声の主が誰かわかったのかこっちを二度見してきた。
「ん、どうしたのだ?」
「そ、そそそっ、その声はああっ……」
「ああ、そうだ。ボスの虎野の声だ」
「な、な、なんで――」
「――ほら、これを見ろよ」
不良グループの中でも近藤は特に頭が悪くて理解が遅いのは間違いないので、俺は自分のスマホを見せつつ、さらに賢明になれる『セージ』の魔法もかけてやった。まあこいつの場合は大馬鹿が中馬鹿になる程度だろうが。
「……くぉっ、こ、これはぁぁ……!」
お、やつの充血した目玉が今にも飛び出しそうになっている。さすがの激烈バカでも現状が理解できたみたいだなってことで、俺は例の仮面を被ってみせた。
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