一二四話


「ゆ、ゆ、優斗がっ、パシリ仮面――じゃなくてえぇ、か、仮面の英雄だってええぇぇっ……?」


 近藤のやつ、パシリ仮面だなんて口走りやがったが、言い直す程度の知能はあったか。大体『セージ』のおかげなんだろうけど。


「そうだ、俺こそが仮面の英雄だよ。近藤、お前みたいなどうしようもない阿呆でも、少しは刺激があったみたいだな?」


「ぐ、ぐぐっ……」


 近藤の額にくっきりと青筋が浮かぶ。ヤニで汚れた歯を必死に噛みしめていることだろう。仮にも不良グループのボスまで上り詰めた男だ。今まで一方的にいじめてた相手に怒りたくても怒れないなんて切なすぎる。


「――じょ、冗談だったんだよお……」


「えっ……?」


 目の前にいる哀れな男の口から飛び出したのは、とんでもない台詞だった。


「冗談だと? 何が冗談なんだよ、おい、言ってみろ」


「……き、如月……さんをいじめたことについては、悪かったと思ってるぜ。でも、おいらにしてみたらほんの冗談のつもりでやってたことなんだあ。だから、許してくれよおっ……」


「…………」


 こいつ、マジでノータリ〇なんじゃないか?


「冗談なら人をボコってもいいし、大事なものを盗んでもいいっていうのか?」


「……そ、それはあぁっ……遊び半分的なものだからよおぉっ……。まあ、いいじゃねーか。楽しいならよおっ!」


「…………」


 この野郎の思考は一体どうなってるんだ……? 想像を絶するとはこのことだ。自分が楽しければ、遊び半分の気持ちなら何をやってもいいらしい。こいつと会話していたら頭の弱さまで伝染しそうだから、仕置きは早めに終わらせたほうがいいかもしれない。


「おい、とりあえず土下座しろよ、アホの近藤」


「え、え? なんでおいらがあ――?」


「――いいから早くしろ、殺されたいのか!?」


「い、いぎぎっ……!」


 近藤のやつ、いかにも不満そうに土下座したかと思ったら、ナイフで自身の腕を切りつけてる。反省してるところを見せたいのかもしれないが、自傷行為までやるとはな。だからって許すつもりなんて毛頭ないが。さて、そろそろ仕上げに入るか……。




――近藤孝彦の視点




(ま、まさか、如月みたいな雑魚中の雑魚が、あのパシリ仮面だったなんてなあぁぁ。ありえねえ……そ、そうだ、こんなのただの夢だあ。現実なわけねえだろおおっ!)


 近藤が自身の腕をナイフで切り、顔を歪ませる。


「い、いぎぎっ……!?」


(い、いでえぇ……ってことは、夢じゃねえだとお!? 如月の野郎、絶対に許せねえ。こうなりゃ、一瞬の隙を突いてやるんだあ。大丈夫、ビビるなあ。相手は如月優斗、つまりいじめられっ子のゴミだあ。いじめられるようなゴミは一生、どんなことがあってもゴミのままなんだああぁぁぁっ!)


「ふわあ……」


 如月優斗が欠伸をした瞬間だった。その隙を密かに狙っていた近藤の目が光った。


「今だあっ!」


「はっ……!? ぐっ、ぐああぁっ!」


 近藤の投げたブーメランナイフが如月の右目に直撃する。


「よっしゃあああっ! 今のうちに如月をぶっ殺せ! リザードオオォォッ!」


「…………」


 既にリザードマンは如月の背後に回っており、近藤の命令と同時に斧を振り、標的の首を切り落としてみせた。


「でかしたああああぁぁっ! 雑魚ゴミカスの如月の首、刎ねたあああぁぁぁっ!」


 意気揚々とを掴んで持ち上げる近藤。


「おいおい、近藤。よく見てみろって。そいつは俺じゃないぞ?」


「うぇっ……?」


 どこからともなく如月の声がして、近藤がギョッとした顔で生首を確認すると、それは彼の従魔の首であった。


「リ、リ、リザードオオォオッ!?」


「おいおい、悲しんでる場合か? 一瞬の隙を突いて反撃してやろうだなんて、全然反省してないなあ……」


「き、き、如月いっ、お、おいらが悪かったぁ……」


 突如現れた仮面の男――如月優斗を前にして、近藤がすっかり戦意を喪失して後退りする。


(ま、まさか、おいらがやられるなんてえ。こんなはずじゃなかったああぁ……。で、でもまだだあ。命乞いする振りをして隙を突いてやるうぅうう……)


「お前が悪いなんてことはとっくにわかってるんだよ、アホの近藤。覚悟はできてるんだろうなあ?」


「た、たたっ、たすっ、たしゅけてくれえぇっ。命だけはああ――」


「――問答無用。こいつで滅多刺しにしてやる」


「ぎっ……? ぐぎゃあああああああぁぁっ!」


 如月が取り出したペンで全身を滅多刺しにされる近藤。ほどなくして血まみれになって倒れるが、すぐに復活する。


「……あ、あるぇっ……? なんでぇ、おいら、助かったんだあ? き、如月、もしかして、許してくれるのかあぁ?」


「許すわけないだろ、バーカ。回復したあと、またこれで刺してやるんだよ。最低でもあと100回は繰り返さないとなあ」


「しょ、しょんなあぁぁっ……ひっ、ひぎいいいぃぃぃぃっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る