一二五話


「――ふう……。近藤、今の気分はどうだ?」


《仕置き人》の称号の効果が出ているらしく、近藤の苦しみ様は尋常じゃなかった。


「……げほっ、げほおぉっ……ごっ……ごろじで……ごろじでぐでえ……」


「殺してだあ? ははっ、何言ってんだ……。お楽しみはこれからだろおっ!?」


「ひっ……」


 俺は近藤に顔を近付けるとともに白目を剥き、血まみれのペンをペロリと舐めてみせた。


「お前の真似だよ、間抜け面の近藤。そういやお前、盗み癖があったな」


「ゔぇっ……?」


「もうそんなことが二度とできないように、俺が。盗みすぎて人間じゃなくなるとは思うがな」


「に、に、人間じゃ、なくなるうぅ……?」


「そうだ。ほら、俺たちの教室にでかい鶏がいるだろ? あれが虎野で、俺がああいう風にしてやったんだよ」


「ぶぇっ……!? あ、あれがああぁ……? しょっ、しょういえばあぁ、ヴォッ、ボスの面影があるようなあぁ……」


 賢くなれる魔法『セージ』のおかげか、白目を剥きつつもちゃんと理解できた様子の近藤。偉い。


「ああ。そういうわけだから、お前も別の姿に変えてやる。あれよりもっと惨めな姿がいいな。でも、ほんの冗談でやることだから別にいいだろおっ!?」


「やっ……やべてえぇっ……たにょむからあ……。おいら、なんでもしゅるからあぁ……」


「ダメだ」


「……や、やべでぇ……。やべでぐでええええええぇぇぇぇっ!」


 近藤の人類として最後の悲鳴を、俺は満面の笑顔で聞いてやった……。




「…………」


 四度目の復讐を完了させた俺は、仕置きの余韻を味わいたくて徒歩で自分の教室へと帰還したところだった。


 処刑を終えたあとで夕陽を浴びながらここへ来ると、なんか大事を成し遂げて故郷へ凱旋したような気分になるなあ。


『皆さまにお知らせがあります』


 お……まもなく祝福するかのように天の声が舞い落ちてきて、俺の浮かれた気分も最高潮になろうとしていた。


『仮面の英雄さまから、をいただきました。前回の鶏さんといい、学校で一番荒れていることで有名な2年1組を浄化するために便宜を図ったとのことです。ですので、どうかお受け取りくださいっ!』


「「「「「ザワッ……」」」」」


「……ははっ……」


 周囲のやつらが騒めいているが、なんとも気まずい雰囲気だ。自分たちが恥ずかしい存在だと遠回しに言われてるようなもんだからな。


 やっぱり、ヒナは普段から俺の行動をよく見てくれてるし、こうして気持ちを汲んで粋な演出もしてくれるので非常にありがたい。


「――フンガーッ」


 お、来た来た。元巨人のジャイオンが持ってきたのは、色んな虫が飾られた昆虫の標本だ。それを黒板の横に飾ると、俺のほうに一礼して引き上げていった。


「「「「「おおおっ……!」」」」」


 それまで微妙な空気が漂っていたが、興味が湧いたのか生徒たちが標本の周りに集まり始めた。


「異世界の昆虫もさ、俺たちの世界のものと似てるんだな」


「ちょっとサイズが大きいくらいで、ほとんど一緒ね」


「だなあ……って、あれ? 今、動かなかったか?」


「はあ? 標本なんだし気のせいでしょ」


「てか、あの虫マジキモ。真っ黒だし光沢といい触覚といい、大きなゴキブリみたい……」


「うげえぇっ。だから生きてるように見えたんじゃね?」


「…………」


 実は、今話題になってるゴキブリのような虫は近藤なんだ。やつを『オールチェンジ』でこうして昆虫に変えてやったってわけだ。


 まだ生きているとはいえ標本だから蠢くくらいしかできないのはもちろん、見える景色も壁だけだし、みんなにキモがられるしでこいつにはぴったりな姿だ。


(……イヤダアァァ、オイラハ、コンチュウジャネエ。ナンダアァァ……)


『テレパシー』を使うとやつの心の悲鳴が聞こえてきた。なあに、すぐに慣れるさ。いずれは完全な虫になれる。こいつの頭の悪さなら大丈夫だ。


 さて、次は不良グループ――といっても近藤がこうなったことで浅井しかいないが、様子を見てみよう。


「ううぅ……近藤君までいなくなっちゃった……。一体なんなの……」


 さすがに独りぼっちになったことが相当こたえたのか、浅井はがっくりと項垂れていて寂しそうにブツブツと呟いていた。


「――その、なんだ、浅井、元気を出せ」


 なんとも嫌らしい笑みを浮かべながら彼女に近づいてきたのは、なんと教師の反田だった。そうだ、まだこいつがいるのを忘れていた。てか、やつも浅井に気があったのか。


「は、反田君……?」


「だから、反田君じゃなくて反田先生と呼べ。これからは、私がお前の面倒を見てやる」


「は、反田先生、ほんとぉ?」


「あぁ、もちろんだ。ただ、その代わり……まあ、それについてはわかっているとは思うがね……」


「う、うん……」


 浅井のやつ、どんだけビッチなんだよ。近藤がいなくなったと思ったら今度は担任の反田と付き合うとか、相手が性格の悪い男なら誰でもいいのかこいつは。


 反田も反田で、不良グループが壊滅した途端に浅井を口説くなんて虫が良すぎるな。しかも教え子との性行為が目的って、クズ教師にも限度ってもんがあるだろうと。


「「ごげっ!?」」


 とりあえず、二人に『ミスチーフ』セットをお見舞いしてやる。次の処刑タイムが今から本当に待ち遠しいなあ。

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