第五章
一二六話
「…………」
天声の主であるヒナと初めて出会った場所――すなわち旧校舎と新校舎を繋ぐ二階の渡り廊下、その中央付近まで俺はやって来ていた。
周辺は驚くほど閑散としている。『ループ』等の魔法で細工してるわけでもないのに人の姿がまったくないのは、約束の日時と場所だからってことでヒナが何かやったからなのかもしれないな。
「ヒナ、もうそこにいるんだろ?」
「えへへ、やっぱりバレちゃってましたか……」
すぐ背後からヒナが舌を出しつつ姿を現した。やっぱりそうだったか。ちょっとした気配でもわかるのは、それだけ俺のステータスが人間離れしてるためだろう。
「あの、復讐おめでとうございます! 今回のお仕置きもユートさんらしさが溢れてましたね。ちょっとだけ気分は悪くなっちゃいましたけど……」
「あ、そういやヒナは昆虫が苦手だったか」
「ですよ? 特に黒光りするあの生き物は大の苦手なんです……って、大事なお話があるんでした」
「ああ、そうだったね。どんな話かな?」
「それが……え、えっと……その……」
「ヒナ?」
「うー……」
喋ろうとはするものの、気まずそうな表情で口を噤むヒナ。よっぽど言いにくいことなんだろうか。今まで語ってきたことだってかなり驚くような話だったが、今回はそれ以上の衝撃を孕んでるのかもしれない。
「私のこと……嫌いにならないでください」
「えっ……」
何を言い出すかと思えば、彼女の口から想像の斜め上の言葉が飛び出した。
「いや、無理矢理俺たちを召喚したこと以上に嫌いになる要素は多分ないと思うから……」
「だ、だといいのですけど、本当のことを知ったら、気が変わるかもです……」
「……大丈夫。俺はメンタルも鍛えられてるから」
「ユートさんが言うと説得力があります! そ、それじゃ、思い切って言いますね。私はこういう見た目ですが、実は人間じゃありません……」
「…………」
まあそうだろうな。スキルが効かない時点で想像できていたことだ。
「ってことは、神級モンスター?」
「そうです。モンスターと分類されちゃうのは複雑ですけど、それだけの力があるってことで仕方ないです。それにしても、ユートさんはよくご存知ですね……って、驚かないんですか?」
「既に遭遇しちゃってるしね」
「な、なるほど……」
ジルとの出会いは忘れようにも忘れられない。色んな意味で衝撃的だったからな。
「っていうか、それなら俺よりヒナのほうがよっぽど強いと思うし、救世主として相応しいんじゃないかって思うんだけど……」
「ポンコツですけどねっ」
「ポンコツ?」
「はい。私はとある村を襲った際に頭を打って記憶を失い、その際に力も当時と比べて著しく弱くなってしまったんです……」
「そうだったのか……って、記憶を失ったのなら、どうしてそんなことがわかったんだ?」
「それが、自分の中に過去の自分の姿を見られる能力があって、それを偶然使ったことで知りました」
「な、なるほど……」
「私は恐ろしくなり、今までなんて酷いことをしてきたんだと後悔の念に駆られ、自分を消そうとして谷底から身を投げたのですが、死ぬことはできませんでした。フラフラと歩いていたとき、一人のおじさんに助けられたんです。その方からこの世界の惨状を聞いて決心しました。恩返しのためにも、一人でも多くの人々を助けようと。ですが、わかったのです……」
「わかった?」
「はい。私一人だけの力では、この世界の方々を救うなんて到底できないのだと。それで協力者を探したのですが、首を横に振る方ばかりで……」
「そうか……」
まあそりゃそうだよな。デストロイやジルみたいなモンスターがその辺に普通にいるところで暮らしてたら、よっぽどの変わり者でない限り世界を巡って救世主になろうなんて思わないだろう。
「それなら、別世界の方の力を借りてみようということになり、こうして学校召喚に至ったというわけです……」
「なるほどなあ……って、そうだ。俺から一つ質問してもいいかな?」
「はい?」
俺はそこでヒナに対し、前々から気になっていたことを訊くことにした。彼女も神級モンスターってことで、ジルとの関係がどういうものなのか知りたかったんだ。
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