一二七話
「俺を襲った神級モンスターのことだけど、もしかしたらヒナの知り合いなのかなって……」
「っ!?」
俺が訊ねた途端、ヒナがはっとした顔で黙り込んでしまった。この反応……おそらく知り合いだな。ますますどういう関係なのか気になってくる。
「……言いたくないなら、無理して言わなくても――」
「――いえ、言います! ジルさんとは知り合いですけど、正直大っ嫌いです」
「えっ……」
「何故なら、あの方は私が選んだ救世主さまを殺してしまったからです……」
「そ、そうだったのか……」
そういや、神級モンスターに殺されたとか言ってたが、あれってジルだったんだな。
「そのとき、私も殺してくださいと泣きながらお願いしたら、あの人はそれを拒みました。記憶を失う前の私のことを知ってるみたいで、お前が人間の肩入れをするなど信じられないと、そう呆れたように呟いて姿を消したのです……」
「へえ。じゃあヒナの仲間だったのかな?」
「そこまではわかりませんが、想像もしたくないことです。私が人を虫ケラのように殺してしまうなんて……」
「確かに、ヒナがそんなことをするなんて信じられないな。ドジっ子の印象だし」
「ですよね。我ながらそう思います! 私はビリの神様みたいです……」
「ははっ……」
ビリの神様、か。なんだかヒナらしいな。
「というわけですけど、それでも嫌いにならないでくださいね」
「大丈夫。そういうのは慣れてるから」
「そういうの?」
「ああ、俺はいつもラビと一緒にいるから――」
っと、しまった。つい口走ってしまった。その際、ヒナの目の奥が怪しく光るのがわかって正直生きた心地がしなかった。なんせ、彼女は力が衰えたといっても神級モンスターだからな……。
「それって、例のペットさまのことですよね?」
「あ、あぁ、そうだけど……」
「余計なお世話かもですけど、ユートさんの手を焼かせるようなら、厳しく躾けることも大事かと思いますよ? だって……ペットは所詮ペットですからっ」
「…………」
笑顔でラビについて語るヒナが俺は妙に恐ろしかった。空気を変える意味でも、別のことを訊いてみるか。
「あ、そうだ、もう一つ聞いておきたいんだけど」
「なんでしょう?」
「ヒナって普段どこから天の声を発してるのかなあって……」
「あ、それなら、これからご案内しますね。それっ――!」
「――っ!?」
ヒナの頭上に詠唱バーが出現したかと思うと、まもなく周りの景色が別物になった。
「こ、ここは……」
そこはモニターにまみれた広い部屋で、紛れもなく視聴覚室だった。なんというか……イメージ通りだな。
「ユートさんがいるところは、ここで隈なくチェックしてますよっ♪」
「…………」
おいおい……それって監視みたいなもんじゃないか。ヒナの無邪気な笑顔を前にして俺は戦慄した。
「ほかにも質問していいですよ? で、でも、下着の色とかは、困りますけどね……白ですけど」
「…………」
いや、そんなの訊くつもりはないし、勝手に答えちゃってるしで突っ込みどころ満載だ。相変わらずだな、ヒナは……。
「それより、ヒナはこんなところで寝てるの?」
「いえ、ちょっと待ってくださいね。それっ!」
「なっ……」
俺はまたしても違う場所に拉致されたわけだが、そこは靄がかかった小屋の前だった。
「こ、ここは……?」
「私の家ですよ? 実は学校の下、つまり遥か谷底にあるんですよ」
「ええっ……」
こんなところに住んでたのか……。これは意外だった。今は靄で視界が悪いからいいものの、死体に囲まれてそうな場所だから窓の外はあまり見ないほうが良さそうだ。
「元々は私に色々教えてくださったおじさんの家だったんですけどね。折角なので、中でお茶でも……」
「えっ……」
「なんて言いたいところですが、あいにく散らかってますので、今度ご案内しますねっ」
「そ、そっか。それは残念……」
内心、ホッとしている自分がいることに俺は気が付いていた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます