一二八話


「はあ……」


 あれからヒナと別れた俺は【ダストボックス】へ入ろうとしたわけだが、どうしてもそれができずにいた。踏ん切りがつかなかったんだ。


 復讐の邪魔をされたくなかったから分身も作らず、結果としてファグたちにずっと待ってもらうことになったからだ。


 エルの都が見えてきた中でお預けを食らってる格好だし、みんな怒ってるだろうなあ。そうだ。『アンサー』を使ってみるか。まあ答えはわかりきってるが。


(ファグたちは怒り心頭?)


(ノー)


「ええっ……」


 その回答は意外なものだった。そんなに怒ってないのか。でもこれで入りやすくなったってことで、俺は早速【ダストボックス】スキルを使用した。


「「「「「っ!?」」」」」


 みんな俺に注目してきたが、『アンサー』の回答通り激怒してる様子はない。それでも、俺を前にしたら目の色を変えて怒鳴ってくるかもしれないので念のために頭を下げた。


「みんな、待たせてしまって悪かった……」


「おう。待ちくたびれたぜ、ユート」


「ユートったら、おそーい」


「まったくもってスロウリーじゃな」


「本当ね。ユートって寝るのは早いのに」


「「「「「ワハハッ!」」」」」


「…………」


 ファグたちに弄られたが、みんな怒るどころか上機嫌の様子だったので俺は面食らっていた。こりゃ一体、どういうことなんだ? お、台所にいたラビとモコが駆け寄ってきた。


「はううっ。ユートさま、おかえりなさいませぇっ」


「ご主人さまー、おかえりいっ」


「ラビ、モコ、何かあったのか?」


「特に何もないですよぉ? ただ、皆さんから今まであったことを聞いたんですぅ」


「うんうん。モコね、楽しかったー」


「なるほど……」


 そうか、思い出話で盛り上がってたのか。それなら語ることは沢山あるだろうし、不機嫌になることもなかったわけだな。


「そのぉ……ユートさまぁ」


「ご主人さまー」


「ん?」


 ラビとモコが上目遣いでそわそわしている。まさか……。


「私をエルの都へ行かせなさい……!」


「モコも行きたいーっ!」


「…………」


 やはり、二人とも一緒に行く気満々だった。まあいいか。ニンジンをいっぱい食べさせなきゃ暴走することもないだろうしな。


「よし、じゃあ一緒に行くか」


「「わあいっ!」」


 ラビとモコが飛び跳ねて喜んでるのを見ると、こっちまで嬉しくなるなあ。


 そういうわけで、彼女たちも一緒に馬車に乗せると、【ダストボックス】から出ることに。


 周囲はすっかり暗くなっていたが、月明かりやエルの都が輝いてるおかげで方向がわからなくなることはなかった。


 そんなわけで、馬の向きを都のほうに変えたファグが鞭を使い、歓声とともにいよいよ馬車が進み始める。


 夜とはいえ、夢にまで見たエルの都が近いということもあってかみんなのテンションは異様に高く、笑い声が絶えることはなかった。


「はうぅ、お外へ行くのは久しぶりですうう」


「モコ、たのしー」


 特にラビとモコは目に涙を溜めるほど感激したらしく、キョロキョロと周囲を見回していた。まあずっと【ダストボックス】に籠もってたわけだしな。たまには散歩させてやることも大事だと痛感した格好だ。


 ――ん? 茂みのほうからが現れたかと思ったら、こっちに少しずつ迫ってくるぞ。あれはなんだ……?

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