一二九話


 あの火の玉は……ファイヤーボールか!? なんて一瞬思ったが、それにしてはゆっくりと近付いてきていて、よく見るとまるで霊魂の集合体みたいな感じだった。


 人の顔が色んな方面にぼんやりと形作られているんだ。ありゃ間違いなくモンスターだな……って、ファグたちがガクガクと震えてる。一体どうしたんだ?


「お、終わった……」


「も、もうダメだよお……」


「……ジ・エンドじゃな……」


「終了ね……」


 ファグ、ミア、キーン、リズの怯え方は尋常じゃなかった。


「ううぅっ。悪霊さんでしゅ。もうダメでしゅ……」


「モコ、怖いよぉー!」


「…………」


 ラビとモコまで顔面蒼白だった。みんな俺の強さについては知ってるはず。なのに、何故ここまで絶望的な空気になってしまったんだ?


 この淀んだ空気を生み出した悪霊の集合体は、それを味わうかのようにじわじわとほんの僅かずつこちらへ迫ってきていた……っと、俺までぼんやりとしてたらいけない。底を突いてしまったパーティーの士気を高めなければ。


「みんな、頼むから元気を出してくれ。やつは俺が必ずなんとかするから」


「いや、ユート。気持ちはありがてえが、今回はもうさすがに終わりだ……」


 馬車を停止させたファグが頭を抱えながら発言する姿に、俺は軽い眩暈と衝撃を覚えていた。


「お、おいおい、何を言ってるんだ、ファグ。今までだって俺がなんとかしてきただろ? だから信じてくれ!」


 俺がそう力強く言ってみせると、ファグが頭を上げることなくゆっくりと左右に振った。


「ユート……お前がこの上なく頼りになるのはよくわかってる。だけどよ……あれはつええとかの問題じゃねえんだ……」


「え……?」


 俺はファグが言ってることの意味がわからなかった。強いとかの問題じゃない?


「ちょっと待ってくれ。ファグ、それは一体、どういうことなんだ……?」


「強いとか弱いとか、そういう次元じゃねえってこった。ありゃあもしかしたら、神級モンスターよりも厄介かもしれねえ……」


「なっ……!?」


 ファグの口からとんでもない台詞が飛び出したので耳を疑う。神級モンスターよりも厄介かもしれないだって……?


「じゃ、じゃあ、それよりも上のランクがあるってことか?」


「いや……あれは確か異次元級だから神級より強いってわけじゃねえが、一度現れたら、冒険者の精神を食らい尽くすまで生き続けるガチの悪霊だ」


「精神を食らう悪霊?」


「そうだ。一度やつに取り憑かれたら最後。廃人になるまで、少しずつ心を搾り取られる……」


「ファグ、それ僕も知ってる。故郷の村でも、たまに噂になってたもん……」


「噂? どんな内容なんだ、ミア?」


「それがね、ユート。あの悪霊に見られちゃった時点で、もう憑依……されてるんだってえぇぇ……ぐへへっ……」


「っ!?」


 ミアの声がやたらと低くなったと思ったら、その瞳に強烈な赤い光が宿っているのがわかった。


「ま、まさか……」


「も、もう、わしらの旅どころか、人生も終わりじゃのおぉぉ。何もかもへし折れ、砕け散ってしまったのじゃあぁぁ……」


「あ、あ、あたしもそう思ううぅう。ここでぜえんぶ投げ出してえぇ、奈落の底で永遠に惰眠を貪りたい気分だわぁぁ……」


「は、はわわっ。み、皆さん、どうしたのですかぁ? 怖いでひゅううぅ」


「モ、モコも怖いよー……」


 どうやらラビとモコ以外、みんな悪霊に取り憑かれてしまったらしい。気が付くと例の火の玉は消えていたが、人影のような仄暗いものがファグたちに重なっていたんだ。


 そういや、俺も無事なのか。彼女たちは人外だからわかるとして、自分は高いステータスのおかげで憑依されるのを回避できたのかな。


 とにかくまずは【慧眼】を使って、迫りくる悪霊のステータスを確認してみるとしよう。


__________________________


 名前 マインドイーター

 種族 幽霊族


 HP 444/444

 MP 681/681


 攻撃力 0

 防御力 0

 命中力 0

 魔法力 681


 所持能力

『物理無効化』『魔法無効化』『憑依』『精神吸収』『無作為転移』


 ランク 異次元級

__________________________


「…………」


 なるほど。ファグが言ってたように、強くはないが倒すのが難しいタイプの敵ってわけか。それでもこっちにはチート魔法の『アンサー』があるからな。あれなら解決策を導いてくれるはずだ。

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