一三〇話
突如出現した悪霊の集合体――マインドイーター――によって、ファグたちが取り憑かれてしまうというなんとも厳しすぎる状況下、俺は藁にも縋る思いで『アンサー』の魔法を使った。
(ファグたちが悪霊に憑依された。どうすればいい?)
(ブラックホール)
ブラックホールだって? あ、【ダストボックス】内にある固定されたゴミ箱のことか。
なるほど……あれなら魔法も物理も効かない悪霊モンスターをも消し去ることができるし、そこにファグたちをそこに誘導すればいいわけだな。
もちろん彼らは命を落とすが、そのあとモコに『復元』を使ってもらえば復活できる。
神級モンスターと違ってスキルは通じるので、早速俺は【ダストボックス】に入るとともに悪霊どもを放り込んだ。
「ファグ、ミア、キーン、リズ……申し訳ないがこのゴミ箱に入ってくれないか」
「「「「……」」」」
だが、悪霊が憑依しているせいか、ファグたちは俺の言うことを聞いてくれなかった。それならとばかり引っ張ってでも中に入れようとすると、擦り抜けてしまった。そうか、物理が通じないんだった。
輪郭がどんどん薄れていて、今にも悪霊どもと一緒にどこかへ飛びそうな雰囲気がある。確か、マインドイーターの所持能力の一つに『無作為転移』ってのがあったし、追跡できたとしても色んなところへ飛びまくるだろうから手に負えないんじゃないか。
畜生……どうすればいいんだ? もう『アンサー』を使う余裕すらない――って、そうだ。仲間の言うことなら聞くかもしれない。
俺はそういうわけで自分の『アバター』を生み出すと、ステータスが貧弱なせいかすぐに憑依されるのがわかった。早速『コントロール』の魔法を使って幽霊っぽく囁いてみる。
「……さあ、みんな……。俺と一緒にこのゴミ箱に入ろう……。全部終わらせるんだ……」
「「「「……うい……」」」」
ファグたちから陰鬱な声が返ってくるとともに、俺の分身を筆頭にみんなブラックホールの中に次々と飛び込んでいった。
「モコ、頼む! ファグたちを『復元』してほしい」
「了解だよっ、ご主人さまー」
モコが片手を上げると、彼女の姿が動物へ戻るとともに、ゴミ箱の前に消えたはずのファグたちが出現した。しかも、みんな普通の様子に戻っている。おそらく、悪霊たちは元の場所に帰った、つまり昇天したんだろう。
そのことを証明するかのように、《ゴーストキラー》という称号も得た。自分はもちろん、近くにいる仲間が悪霊から憑依されなくなる効果なんだとか。こりゃいい。
「あ、あれ? 俺ら、どうなったんだ?」
「た、確か、僕たち悪霊を見ちゃったような……」
「う、うむ。意識がなくなったのをよく覚えておる」
「あたしも……ってことは、ユートがまた助けてくれたの……!?」
「ああ。一時はどうなるかと思ったが、よかったよ」
ファグたちもようやく実感が出てきたらしく、ほっとした顔を見せ始めた。
「本当に、ありがてえ。つか、ユートに助けられてばかりだな、俺ら……」
「だねえ。ユートさまさまだよお」
「ユートから借金しまくってる感じじゃのう」
「それじゃ踏み倒すわけにもいかないわね」
「「「「「アハハッ!」」」」」
みんなようやく本来の調子が戻ってきたみたいだ。
「でもよ、ユート。一体どうやって悪霊どもを退治したんだ? やつらを倒すなんて不可能だと思うんだが……」
「あ、それは……まあ、とっておきの裏技を使ったんだよ」
「「「「な、なるほど……」」」」
みんなどことなく引っ掛かりがありそうだったが、これについては真実を知らないほうがいいと思ったんだ。
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