一三一話


「「「「「――なっ……?」」」」」


 悪霊の集合体に打ち勝った俺たちは、予定通りエルの都へ向かうべく意気揚々と【ダストボックス】を出たわけだが、を前にして放心状態になっていた。


 なんと、すぐそこまで迫っていたエルの都が忽然と消えてしまっていたのだ。見てる方向を間違えてるのかとも思ったが、周りをいくら見渡してもその姿はなかった。


「う、嘘だろ……? エルの都が消えるなんて、ありえねえよ、こんなのよ……」


「ううっ……僕たち折角ここまで来たのに、どうしてだよお……」


「わ、わしら、幻でも見ておったのかの……?」


「な、なんなの? もう、すぐそこまで来てたのに……」


 特にファグたちの落胆ぶりは相当なもので、またしても悪霊に取り憑かれたかのようにどんよりと沈んでしまっていた。


「はうぅ、ユートさま、これは一体どういうことなんでしょう? 本当に幻だったのでしょうかぁ?」


「もひゅう?」


「…………」


 ラビとモコが不安そうに顔を覗き込んできて、俺自身も不安を掻き立てられそうになるが、ぐっと堪えて冷静になろうと努める。


 こういうときこそパニックにならず気持ちを強く持たなければいけない。じゃないと泣きっ面に蜂状態に陥り、不安の匂いを嗅ぎ取ったモンスターに隙を突かれかねないからだ。


「俺が思うに、エルの都がここら辺にあるのはファグたちもわかってたわけだし、あれが幻のはずはない。だからきっと何かあったんだろうけど、一時的なもののはずだよ」


「「「「「一時的なもの……?」」」」」


「あぁ。だからみんな、落ち着いてくれ」


 俺が普段と変わらない感じで言ったことが大きかったのか、みんな自分を取り戻した様子だった。


 とはいえ、どうしてこんなことが起きたのか原因不明なので、その理由を調べようと『アンサー』を使おうとしたそのときだった。


「「「「「あっ……!」」」」」


 消えていたエルの都が突如、俺たちの前に出現したのだ。確かに姿が見えなくなってたのに、これは一体どういうことなんだ……?


 とにかく、こうして現れた以上は行ってみようということになり、うなずき合ったのち出発した。


 それからほどなくして、自分らを乗せた馬車がトンネルのような半円アーチ状の門を潜った。間違いない。俺たちは紛れもなくエルの都に到着したんだ……。


「「「「「遂にキターッ!」」」」」


 俺はファグたちと顔を見合わせて喜び合ったが、こうなると一時的とはいえ都が消えていたのはなんだったんだろうと思う。みんなが体験したことだから気のせいだった可能性は低いし、どうしても消えた理由が気になって、門番に話を聞いてみることに。


「すみません。そこの門番さん」


「ん、なんだね?」


「質問したいことがあるんですけど、この村……いえ、都って、しばらくの間消えてませんでした?」


「あー……そんなことも知らないのか。ということは、お前たちは田舎者というわけだね。しかも、たかだか冒険者のように見えるが、そんなんでよく今まで生き残れたものだなあ?」


 門番が物珍しそうに俺たちを見て目をぱちぱちさせる。なんだか失礼なやつだ。


「おい、てめえ、田舎者でわりいか!? 死にたくなけりゃとっとと教えやがれ!」


「あ、は、はひっ。申し訳ありませんっ……」


 ファグが怒った様子で詰め寄ると、門番は青ざめながらも話を続けた。さすが《ゴロツキ》たちの元リーダーなだけあって凄い迫力だ。


「こ、このエルの都にはですね、外部にモンスターが発生したとき、一時的に都そのものを消す仕組みが備わっているのです……」


「「「「「なるほど……」」」」」


 そんな便利な仕掛けが施されてたんだな。それで今までモンスターに滅ぼされずに残っていたわけか。もしかすると、こうして消えるからってことでエルの都っていう名前がついたのかもしれない。

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