一三二話


「「「「「おおおぉっ……」」」」」


 馬車を下りた俺たちは、早速エルの都を散策し始めたわけだが、夜であるにもかかわらず立ち並ぶ店の灯りや人の往来が絶えず、賑やかで目移りするような状態が保持されていることに衝撃を覚えていた。


 今までは集落並みの過疎った村ばかり見てきただけに、余計にそう思うのかもしれない。俺自身もすっかりこの世界に馴染んでいたってことだろうか。


 町の中は光の成分が多くて混雑しているだけでなく、際どい格好をした獣人や亜人の姿も目立っていて、兎耳ラビのビキニアーマーも至って普通な感じだった。


「ユートしゃま、見てください。お馬さんの顔をした人もいましゅ。とっても楽しいでしゅうぅっ」


「もひゅうぅっ」


「よかったなあ、ラビ、モコ」


 ラビとモコは俺にくっつきながら子供のように声を弾ませていたが、それは彼女たちだけじゃなかった。


「マジで俺たち、エルの都にいるんだよな? 夢の中にいるようだぜ……」


「ファグ、本当だよお。もしかすると夢かもしれないから、僕のほっぺたを誰かつねって?」


「ミアよ、お尻ならいつでもつねってやるぞい!」


「きゃー! い、痛いけど、夢じゃない!」


「キーンったら、ホントお尻大好きなんだから……。今なら特別にあたしのお尻も触っていいわよ? ほらほらっ、すぐに凍らせてあげるけれど!」


「ひいぃっ! 寒いのはわしの頭だけで勘弁じゃわい……」


「「「「「ワハハッ!」」」」」


 ファグたちが夢心地なのもわかる気がする。なんせ彼らからしてみたら、子供の頃から夢にまで見た都だろうしな。


 モンスターを感知して隠れるという優れたシステムがあるからこそ、このエルの都が今まで栄えることができた理由なわけだ。


 ってことは、1000もあるというほかの都にも、上手くモンスターを回避できる仕組みがあるんだろうか?


 あ……そうだ、ほかの都ってことで思い出した。エルの都へ辿り着くことができたんだし、そろそろプリンたちと一緒に王都へ出発しないと。


 ただ、みんな物凄く楽しそうだから宿へ行こうと言い出し辛いのも確かだ。それならとばかり、俺は『スリープ』+『ラージスモール』によって、一人ずつ仲間たちにマイルドかつ自然な眠気を提供することに。


「「「「「ふわあ……」」」」」


 それからファグたちが挙って眠いと口にし始めたので、俺は早速それをきっかけにしてもう遅いから宿を探そうと切り出した。『ガイド』の魔法を使い、都で一番宿泊代の安い宿へと案内してもらう。


 というのも彼らは普段、いつ死ぬかもわからないから稼いでも散財するのが当たり前ってことで、持ち合わせが銀貨5枚しかないみたいだしな。大体酒代で消えるらしい。


 お、一軒の建物の前で矢印が輝いたし、目指していた宿に早くも到着したようだ。


「――いらっしゃいませ、お客様方。こちらの宿は一泊銀貨10枚になります」


「「「「「えっ……」」」」」


 全然足りなかった。一番安い宿でこれなのか……。


「あなた方でしたら、銀貨8枚でもいいですよっ」


「…………」


 俺が持つ《商人殺し》の称号のおかげか、少々まけてもらったがそれでも全然足りない。うーん、どうしようか。野宿するわけにもいかないしなあ……って、そうだ。肝心なことを忘れてた。俺たちにはいつでも休める場所があるじゃないか。


 そういうわけで、みんなで【ダストボックス】へと入ることに。


「「「「「すや……」」」」」


 ファグたちはすっかり安心したのか、ほとんど時間をかけずに眠ってしまった。


 さて、プリンたちのところへ行くか――って、箱が一個あるぞ。まさか、エルの都で捨てられたものなのか。こりゃ楽しみだな。早速開けてみよう。

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