五話


【ダストボックス】から出ると、そこはトイレの鏡の前だった。


 そういや、ここにいたんだったな……って、顔の腫れとか傷がすっかり癒えているのがわかる。なるほど、『エクセレントヒール』で全回復したからか。


「…………」


 トイレから出ようとして、俺は立ち止まった。


 このまま教室へ戻れば、自分のステータスを不良グループに見られる可能性がある。その瞬間みんな怯えてつまらなくなるだろうし、やつらをじわじわと苦しめる作戦が終わってしまう。


 あ、そうだ。確か【隠蔽】ってスキルを持ってたよな。効果を見てみると、自分の姿や情報に対して隠そうと念じるだけで消えるとあった。んじゃ、早速使うか。数字やスキルを隠せばいいだけだ。

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 名前 如月 優斗


 HP 15/15

 MP 18/18


 攻撃力  7

 防御力 15

 命中力  5

 魔法力 18


 所持スキル

【ダストボックス】レベル1


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 よーし、バカ高いHPやMPだけでなく、獲得したスキルや称号を隠すことに成功した。


 ――あれ……教室へ戻ると、不良グループの虎野たちはいなかった。


 もう授業どころじゃないし、屋上とかどこかへ遊びに行ってるのかもしれない。ここへ来るまでに、多くの生徒たちが廊下から窓の外を眺めてるのを見たし、やつらも異世界に召喚されたことの実感がようやく湧いてきたんじゃないか。


「おや、そこにいるのは如月ではないですか!?」


「あ……」


 教室へ入ってきたのは不良の一人、永川だった。


「探してたんですよ。僕の獲得したスキルを人に試したくても、思いっ切り使えるような相手は如月しかいないのですよ。イヒヒッ……」


「…………」


 まるで、俺ならどうなってもいいとでも言いたげだ。そうだ、【慧眼】って鑑定スキルっぽい名前だし、これで永川のステータスを覗いてみるか。

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 名前 永川 清


 HP 14/14

 MP 20/20


 攻撃力  4

 防御力  9

 命中力 15

 魔法力 20


 所持スキル

【魔術師】レベル1


 所持魔法

『ウォーターフォール』


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 なるほど、永川は【魔術師】スキルを持っていたか。んで、この初期魔法の『ウォーターフォール』っていうのを俺に使うつもりらしい。確か、これって滝って意味だな。


「クククッ……僕のスキルは【賢者】であり、そして使用する魔法は『デッドウォーター』……! 闇と水属性が織りなす死の魔法で即死間違いなしですから、泣き喚いて命乞いするんですよ、如月っ……!」


「…………」


 俺の知ってる情報とは大分違うが、見栄張りの永川らしいと思った。


 って、あれ? 詠唱バーがこっちにも見えるので、なんでかと思ったら、そうか、【慧眼】スキルがあるからか。


 それによると、やつの魔法が発動するまで結構かかるみたいなので、効果を打ち消す俺の『ディスペル』が発動するまで3秒かかるのを心配しなくていいレベルだった。


「遂に来ました、如月っ、これから貴様は死ぬ。『デッドウォーター』――あるぇ……?」


 永川がドヤ顔で高々と右手を上げながら叫んだが、素っ頓狂な声が示す通り何も起きなかった。『ディスペル』をとっくにかけてるから当然だ。周りから笑い声が上がる中、やつは見る見る顔を赤くしていった。


「いっ……今のはただの脅しですからっ! さ、最初から僕の計算通りですからっ! アヒイイイッ!」


 奇声を上げつつ、永川が逃げるように教室から走り去っていく。いやー、久々にスカッとしたな。たまたま失敗しただけだとか思ってそうだが、お前らにとっての地獄はこれからだ……。

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