一七六話


「……全て……虚しい……この世は……醜い……」


「ちょっ……」


 瞳から完全に光が消え、虚ろな表情で呟く幼女姿のラビに俺は面食らっていた。まさか、ニンジンを三本も食べたせいで、逆に退化してしまったんだろうか?


 無事だったのはよかったが、もし以前より弱体化してるようだったら本当の本当に学校は潰されてしまうぞ。俺は恐る恐る、【慧眼】で彼女のステータスを確認してみることに。


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 名前 ラビ

 年齢 15

 性別 女

 種族 キャロット族


 HP 12300/12300

 MP  1223/1223


 攻撃力 4510

 防御力  660

 命中力  340

 魔法力 1223


 所持装備

 ビキニアーマー

 ボーンスピアー


 所持能力

『バウンドレーザー』『ムーンラビット』


 称号

《童貞殺し》《オークスレイヤー》《白い悪魔》《花嫁》《ペット》


 ランク 未知級


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「……こ、これは……」


 確かに全体的に見ると退化していたが、それだけじゃなかった。攻撃力の部分は以前より遥かに進化していたし、所持能力も一つ謎なものが追加されていたんだ。


 というか、この突出した圧倒的な攻撃力があれば、マウンテンゴーレムの進路を変えることは充分可能なはず。


「……常闇の中で、いとも容易く望みは失われる……。久遠の絆さえも奈落の底へと転がり落ちる……」


「……ラ、ラビ……?」


 だが、ラビはゴーレムを押すどころか、体育座りでブツブツとネガティブなポエムを紡ぎ出す始末。ニンジン三本でまさかの病み兎とは。これじゃいくら力があってもスーパーラビより役に立たないぞ。


「ラ、ラビ、頼む。ゴーレムを一緒に押してくれないか?」


「……うるさい……黙れ……」


 俺を見上げたラビの赤い目が怪しく光り、モコが俺の肩の上で震えた。


「も、もひゅうぅ……」


「モコ、大丈夫だ。ラビは俺たちのこと、ちゃんと覚えてるようだから……」


 ラビは威嚇してきたものの、それ以上のことはしてこなかった。彼女に話しかけた相手が俺たちじゃなければ、おそらく迷わず『バウンドレーザー』を仕掛けてきたことだろう。


「ウゴオオオォォォッ……」


 焦りを助長するような唸り声とともに、超大型ゴーレムがまた一歩学校へと近づいていく。


 あと5分もあれば学校は岩山の一部と化してしまうだろう。だが、ラビをどうやって説得すればいいのか『アンサー』で訊いても返答はなかった。自分で考えるしかないってわけだ。


「……跡形も……無く……夢は……砕け散る……」


「…………」


 世の中を呪うようなラビの発言を聞いてると、こっちまで参ってきそうだ……って、そうだ。今の彼女は、マインドイーターとかいう幽霊モンスターと同じような雰囲気を持っている。あれを【ダストボックス】のブラックホールに引き込むとき、ネガティブな発言が効いたんだった。


 それなら、あえて消極的な発言をすることでラビに気に入られたらいい。


「ああ、ラビの言う通りだ。この世っていうのは、辛いし悲しいことばかりだよな」


「…………」


 ラビは静かに俺を睨みつけてきたが、攻撃してくる素振りは見せなかった。威嚇しつつも、俺が仲間なのかどうか慎重に見極めようとしてる感じか。


「俺は毎日のように葬式ごっこをされてたから、ラビがそこまで暗くなる気持ちはよくわかる」


「……え……」


 これにはネガティブラビも驚いたのか、目を丸くしていた。そういえば、こんなことを彼女に打ち明けるのは初めてだったな。


「……それなら、学校なんて、いらない、でしょ……? どうして、助けようとするの……?」


「まあ、その通りだ。学校なんて消えればいいって何度も思ったが、今は違う。いいやつもいるってわかったから。それに、いじめを傍観してきた同級生たちは俺がこの手で始末したい。だから、力を貸してくれ……」


「……うん……わかった……」


 ラビが薄く笑うとともに協力することを了承してくれた。おそらくこれが最後のチャンスになるだろう。どうか間に合ってくれ……。

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