八七話
時計の針が夕方の6時を指した頃、俺は『ワープ』を使って2年1組の教室まで来ていた。
あれ以降、ファグたちとともに【ダストボックス】から出て、さあこれから出発しようとした際に、教室に置いた『アバター』になんらかの変化が生じたためだ。
「…………」
教室内が静まり返ってることから察するに、どうやら天の声が届いたばかりのようだが、どうにも様子がおかしい。
いつもならすぐあの優しい声が降ってくるというのに、今回は中々聞こえてこないからだ。もしかして彼女の身に何かあったんだろうか――
『――ご、ごめんなさい。つい、ウトウトしちゃってました!』
「……は、ははっ……」
俺を含めて周りから次々と失笑が漏れる。なんだ、ただ単に眠かっただけか……。こういうところはいかにも天の声の人――ヒナらしいな。
『食料の補充の件ですが、多くの人に行き渡ったみたいでよかったです。それと、困った人がいたら分けてあげてくださいね。職員室でふんぞり返ってるあなたたちも。そんな私も、勝手に召喚しちゃって本当に多大なご迷惑をおかけしてますけど、どうか助け合うことを優先してください』
まったくもってその通りだ。例のクズどもにも、耳にタコができるほど聞かせてやりたい言葉だな。
『最後に、とある方へ向けて一言だけ……。危ない橋はなるべく渡らないようにしてくださいね。君子、危うきに近寄らず、ですよ? 無理したらダメですからね。それではっ!』
「…………」
最後の台詞って、どう考えても俺に向けられたものだろうな。若干怒気を孕んでいるように感じたし、何気にヒナが怒ったら怖そうだから気をつけないと……。
さあて、夕飯でも食べようかと思ったが、この際だからやつらの様子も確認しておくとしよう。
「ふむ。天の声がやたらと不機嫌そうだが、何かあったのか? やつが不快そうだとこちらとしては愉快だが」
「ボスウ、どうせアレの日じゃねえ? いつも神様みてえに気取ってもよお、結局のところメスってわけだぜっ!」
「やーね、近藤君、レディーに対してそういう言い方やめてよ。ま、天の声だけは生意気だし雌犬扱いでも別にいいけど」
「…………」
こいつらは本当に変わらないな。ただ、そのあと警戒した様子になり、天井を見上げたり口を押さえたりするところなんかはしっかり学習してるっぽいが。
「「「――ぶっ!?」」」
もちろん、油断したところを見計らって『ミスチーフ』セットを全種類お見舞いしてやる。
「うっ……?」
なんだ、そのあと俺の頭上に何か落ちてきたと思ったら、鶴の折り紙だった。
おや……なんか文字が書いてあるので広げてみる。
『ユートさん、今日は悪い意味で最高に胸がドキドキして、心臓が止まるかと思いました。スキルが効かない相手からはすぐに逃げてください。それでも、あなたが成長していけば必ず勝機はありますので、どうか心は折らないでくださいね。ヒナより』
「…………」
なるほど、やっぱりジルとのやり取りを彼女に見られてたか。俺が成長していけばあんな化け物に対しても勝てるようになるってことだろうか?
俄かには信じられないような話だが、同じようにスキルが効かないヒナから言われると説得力がある……って、もしかして彼女もジルのような神級モンスターなのか? まさかな……。
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