八八話


「――うっ……?」


 翌日の朝、俺は【ダストボックス】内で目覚めた。


「ユートしゃまぁ……」


「もひゃぁ……」


 なんか息苦しいと思ったら、ラビとモコが自分の体に覆い被さっている状態だった。時計を見たら朝の五時前ってことでちょっと早いがそろそろ起きるか。


「んんっ……放しませんよぉ……」


「もひょぉ……」


「ちょっ……」


 しがみついてくるラビとモコに人型の枕を抱き付かせ、俺はようやくベッドから脱出する。


 ふう……それにしても、久々にここで寝たような気がするなあ。ファグたちのところだと、《魔性の女》のリズに食われてしまう可能性があるからしょうがない。


 今日は大丈夫だったが、ラビもいつの間にかパジャマからビキニアーマーに着替えてるときがあるので要注意だ。


 そういえば今日はいよいよプリンとホルンに再会できる日だったな。天の声の人によると、学校へ近付くのは昼頃だっけか。


 これから朝食を取るにしてもまだ早いし、天の声を聞くために教室へ行くとしても猶予がある。


 それならファグたちのところへ行こうか。『アバター』もそうだし、『セイフティバリアー』を維持できるのは半日ほどだからかけ直しておきたい。


「――あれ……?」


 ファグたちのいるテント内へ戻ったわけだが、彼らの姿はなくて横たわった俺の分身が薄くなり始めていた。


 ん、外から話し声が聞こえてくるし、また喧嘩でも起きてるんだろうかと思って聞き耳を立ててみることに。


「お、おい、そっちはいたか……?」


「ううん、いないよ……」


「わしのほうもおらんかった。おかしいのう……」


「…………」


 今回は喧嘩じゃないみたいだが、ファグたちはこんな朝っぱらから一体何を探してるんだ? っていうか、リズの声だけ聞こえてこないぞ。ま、まさか……。


「ったく、リズのやつどこに行っちまったんだよ……」


「どうしちゃったんだろう? リズがいなくなるなんて……」


「とにかく、リズを探すしかなさそうじゃな……」


 おいおい、やっぱりリズが行方不明になってるのか。昨晩、寝る前まで一緒にいたが、いつもと変わった様子もなかったのに一体どうしたんだろう? ここはもう、こっそり聞いてるような場合じゃないってことで俺はテントを出た。


「みんな、話は聞かせてもらったよ」


「「「ユート……!?」」」


「俺の魔法でリズを探すからもう大丈夫だ」


「「「おぉっ……!」」」


 というわけで、早速『ガイド』の魔法を使い、現れた矢印を頼りにリズの捜索を始めた。この異世界はとにかく未知級だの神級だの、並外れたモンスターが容赦なく出てくるので急がなきゃいけない。


 薄暗い中、腰ほどまである茂みの中をしばらく歩いていると、矢印が光り輝いた。これは、俺たちの探しているものがもうすぐこの先だってことを示しているんだ。


「…………」


 というか、一体リズは何をしにここまで来ているっていうんだ? 周囲は特になんにもないようなところだし、用を足すにしてもこんなに離れた場所までわざわざ行くとは考えにくい。


 この世界は危険なモンスターで溢れているだけに、彼女が迂闊に一人で散歩なんてするとは到底思えないんだ。


 リズが《魔性の女》と呼ばれているのも相俟って、先に進むたびに謎は深まるばかりだった……。

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