八九話
「「「「――あっ……」」」」
俺たちは遂にリズを発見した。
彼女は、積み重なった大きな石の前で一心不乱に祈っている様子だった。あれは一体――?
「――あら……みんな来てたのね」
まもなく、リズがこちらに気付いた様子で振り返ってきた。目が赤くなっているのがはっきりとわかる。
「おいおい、リズ……。お前な、来てたのね、じゃねーだろ! ユートみたいにつええわけでもないのに一人で出歩くなんて何考えてんだ。心配したんだぞ!?」
「そうだよ、リズ。急にいなくなるなんて、僕たちがどれだけ心配したと思ってるの……!?」
「ご、ごめんなさい、ファグ、ミア。知ってる場所が近かったから、ちょっと懐かしくなって寄ったの。あたしは幼い頃、ここで石を積み重ねて遊んでたことがあって、それで――」
「――リズよ、これはまさか、お前さんの家族の墓か……?」
「「「「っ!?」」」」
キーンの思わぬ言葉でその場に衝撃が走る。
「……ええ、その通りよ。そういえば、キーンには話したことあったわね……」
「リズ、よかったらでいいから、ここで何があったのか話してくれないか?」
「…………」
俺の台詞に対し、リズは少しだけ考え込んだ様子だったが、まもなく無言でうなずいた。
重たそうな過去ではあるものの、これからもっと深い信頼関係を築いていきたいなら、知られざる一面をお互いに知ることも重要だろうしな。
「……かつてここには、村があったわ。屈強なモンスターたちによって、いつ滅ぼされてもおかしくない、ありふれた名も無き村の一つ。それでも、心の底から幸せだと思える毎日だった。あいつが来るまでは……」
「あいつ……?」
「ええ。ある日、なんの前触れもなく滅ぼされたわ。それまでの日常が全部崩れ去ってしまった。たった一匹のモンスターによって……」
「…………」
たった一匹のモンスター? ってことは、最初に遭遇した災害級のアビスドラゴンみたいなやつだろうか。
「……あの日のこと、今でも鮮明によく覚えてる。お祭りの日だった。村の冒険者たちが、多くの犠牲を出しながらも超高級のモンスターを追い払ったばかりで、それを祝っていたとき、悲劇が起きたわ……」
「「「「……」」」」
俺たちはリズの話に聞き入っていた。それだけの迫力を孕んでいたからだが。
「いつも、モンスターが現れたらそれを警戒する声が上がるんだけど、その日だけは違った。一人の少女――いや、一匹の人型モンスターが全てを壊した……」
「人型モンスター……?」
人型モンスターと聞いてドキッとするのは、やはりジルを連想してしまうからだろう。
「ええ……。当時の私よりも少し年上な程度で、見た目は14歳くらいだったかしら。小柄な少女が歩いてきて、家族を含めて村の人間たちを一瞬で皆殺しにしたわ。家に忘れ物を取りに行ったあたしだけ、助かってしまって……」
感極まったらしくリズの話はそこで止まったが、もう充分なほど理解できた。
「……だから、ユートが帰ってきたとき、本当に嬉しくて……でもそのときのことを思い出して、凄く複雑で……」
「…………」
そういえばジルが現れたあのとき、リズはファグたちの中でも一番深刻そうだった。
「それから、身寄りがなくなったあたしは、生きるためになんでもやったわ。ある日ぶらりと立ち寄った村で、一人の男から金をスッて逃げたことで運命が変わったけど」
「うむ。それがわしじゃな」
「「「えぇっ……!?」」」
俺だけじゃなくファグとミアもびっくりしてる。彼らまで知らなかったのは意外だ。
「キーンに捕まったとき、駐屯地に連行されるかと思ったら、何も言わずにご飯を奢ってくれてね。信じられる? 当時の彼は髪もふさふさで、しかも俺口調だったのよ」
「「「えええぇっ!?」」」
「わ、わしだってそういう時期くらいあるわい! なんせ十年以上前の話じゃからのー」
へえ、十年前の出来事なのか。
「まだ幼いのにスリなんかやっておるリズが気の毒でなあ、わしは心を閉ざしたこの子を救いたかった。だから、遊び人だったわしは真面目に生きると決め、それまで興味のなかったスキルとやらを受け取ってみたんじゃ」
「「「それが【鍛冶師】?」」」
「うむ……。遊び人として気楽に生きておったわしは、リズのような重たい子供と遭遇したのが衝撃的でな。それで、当たり前のように精錬によって失敗を重ね、頭はすっかり禿げてしまったが、遂にリズは心を開いてくれるようになったというわけじゃ……」
「「「なるほど……」」」
俺はリズとキーンの過去を聞いて、また一歩お互いの距離が縮まったような、そんな気がした。
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