九十話


「…………」


 んん? 滅んでしまったリズの故郷の跡地から、エルの都へと向かっていた最中だった。教室に置いた『アバター』に異変が生じるのがわかった。


 妙だな……。一体何があったっていうんだろう。ちょうど今は昼頃だし、プリンとホルンに会うためにそろそろ戻ろうとは思ってたが、珍しく朝夕以外に天の声でも届いたんだろうか? あるいは、俺の分身がまた不良グループにいじめられてるとか?


 とにかく何が起きたのかこの目で確認してやろうってことで、俺は【隠蔽】に加えて『アバター』と『セイフティバリアー』を使用すると、『ワープ』で2年1組の教室まで飛んだ。


 おや……? 教室内がやたらと騒がしいと思ったら、生徒たちが窓際に集まって上を指差してるのがわかる。


 こ、これは……。文字通り、空が荒れに荒れていた。それも、自然の摂理に反するような不自然な荒れ方だ。おそらく、誰かが強力な魔法を使っている。自身の存在がここにあるということを示すかのように。


 ってことは……もうが来ているってことか。俺はいてもたってもいられなくなり、『ワープ』で崖上まで飛んだ。


「――あっ……」


 やっぱりそうだ……。崖の上には見覚えのある二人の姿があった。


「プリン、ホルン……」


「「っ!?」」


 ん、彼女たちはびっくりた顔で振り返ってきたかと思うと、不思議そうな様子でキョロキョロしてるし、なんだこの反応……って、そうだった。気分が高まりすぎて、【隠蔽】を解除するのを忘れてた。


 これじゃヒナのことを笑えないな……。俺は自分のうっかり具合に苦笑しつつ姿を現すと、それまで一向に定まらなかった二人の視線が突き刺さってきた。


「ユ、ユート……」


「ユートどの……」


「プリン、ホルン、久々だな――」


「――あ、会いたかったの……じゃ、じゃなくて、プリンは全然会いたくなかったんだからあっ!」


 そう言いつつ涙目で抱き付いてくるプリン。彼女のこの奇妙な言い回しも本当に懐かしい。


「ユートどの、ご無事で何よりです……。貴殿が果たして本当にここへ来るのか、正直それがしは疑っていたのでありますが、プリンさまの勘が見事に的中しましたね……」


 ホルンがハンカチで目元を拭いながら語る。


「ってことは、ホルンは俺がどこにいるって思ってたんだ?」


「それが……手紙を預けた最寄りの村はモンスターによって既に滅ぼされており、生き残った村人の話ではエルの都へ向かったということでしたので、てっきりそっち方面かと。ところが、プリンさまはあの崖ならすぐに会える気がすると仰ったのです……」


「なるほど……」


「ふんっ……。プリンは、ここならユートといつでも会えるって思ってたから、別にそこまで会いたくなかったんだもん……」


「ははっ……」


 真っ赤な目でそんなことを言うプリンがなんとも愛おしい……って、そうだ。王女と護衛ならちゃんと立場があるわけで、なんでこの二人が俺に会うためにここまで戻ってきたのか、その理由を聞いておかないと。


「というか、どうして二人とも俺に会いにきたんだ?」


「「……」」


 なんだ、俺の質問に対してプリンとホルンが露骨に表情を曇らせた。この様子だと、思ったより深刻なことが彼女たちの身に起こったみたいだな……。

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