九一話


「――と、こういうわけなのであります……」


「な、なんだって……?」


 王女プリンの護衛であるホルンの口から飛び出したのは、俺が想像していたものよりも遥かに衝撃的な話だった。


 現在の王様が病死してから一夜明けたのち、第二王子派によってクーデターを起こされ、第一王子派は全員捕まってギロチンにかけられだけでなく、逃亡した第一王女のプリン一味を捕縛しろとの命令も出され、今や国家転覆寸前まで陥っているとのこと。


 しかも、まだ幼い第二王子を担ぎ上げているのが、国で最も残忍なことで知られるガイアス侯爵だという。


 プリンたちからしてみたら、予想していたことが起きただけなので、驚きはまったくと言っていいほどなかったそうだが。


「第二王子のウランさまは、年若くまだ10歳。そのような野望などあるはずもないというのに、不敬にもガイアスめは第二王子を傀儡にしてこの国を乗っ取るつもりなのです……」


「でも、そんな簡単にクーデターを許すなんて、ほかのやつらは何をやってたんだ?」


「それが……ガイアスは商人ギルドとも繋がりがあり、強欲な彼らを取り込んでいる上、人心掌握術にも長けており、クーデターを起こすのは時間の問題とされていました。想定外だったのは、王様が亡くなられるのが早すぎたことと、第一王子派が呑気すぎたということくらいでして……」


「ってことは、つまり――」


「――ユートどのがお察しの通り、プリンさまは珍しい花を収集すると見せかけ、味方を増やすべく各地を転々としていたのであります」


「なるほど……」


 でもよくよく考えたら、こんな超ハードな世界で呑気に花を集める目的だけで王女が外出するはずもないよな。


「連中からしてみたら、あとは第一王女のプリンを始末すればってところなのか」


「まったくもってその通りであります……」


「うん、その通りなの……」


「で、味方は増えた?」


「「……」」


 ん、二人が困惑した様子で黙り込んでしまった。って、そうか、そんなのがいるなら彼女たちだけでここへ来るわけもないしな。


「一応、現在進行形で協力者を探してはいるのですが、ことごとく拒まれているというのが現状なのです。皮肉にも、モンスターの脅威に満ちている世界だからこそ、追手から逃れてこうして生き残ることができているという次第でありまして……」


「プリンたちはね、命が惜しいからって協力を拒まれちゃってるの……ぷいっ」


 ホルンとプリンはとても悔しそうに項垂れていた。このまま協力者が見つからずに城へ戻れば、みんな処刑されてガイアス侯爵の思うつぼになってしまうってわけだ。


「「……」」


「…………」


 なんか、二人から物凄い圧力を感じる。これってやっぱり、俺に協力してほしいってことだよな……。


「ユートどの、是非、力を貸していただけないでしょうか……」


「ユート、プリンを花嫁にしたいなら、協力してくれたらなってあげてもいいけど……?」


「ちょっ……」


 このまま助けたら本当にそういう流れになりそうだな。うーん、どうしようか? 確かに胸糞悪い話だし、彼女たちの力になってやりたいのは山々なんだが、ほかにやることもいっぱいあるからなあ。


「あのさ、俺もやることがあるし、急がなくていいっていう条件なら協力してもいいけど……」


「「おぉぉっ!」」


 プリンとホルンが目を輝かせてるし、どうやら納得してもらえたみたいだな……。

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