九二話


「――ふう……」


 俺はプリンとホルンを抱えて『フライ』を使い、学校の屋上まで降下したところだった。


 とりあえず彼女たちを学校内のどこかに泊らせることにしたんだ。ここで何か問題が起きたとしても、二人の実力なら容易に跳ね返せるだろうしな。


「ここがユートどのの暮らしている家でありますか……」


「おっきいけど、場所もそうだし、なんか変な感じの家なの……」


「ま、まあ、住んでた世界が違うからね」


「「なるほど……」」


【ダストボックス】で待機してもらおうかとも思ったが、中にはラビもいるし色んな意味で誤解される可能性もあり面倒だってことで取りやめにした。彼女は俺のお嫁さんを自称してる上、異世界じゃ相当に恐れられてる種族だしな。


「っていうか、ユート、なんでそんなの被ってるの?」


「ユートどの、それがしも先程から気になっておりました」


「あ……」


 学校内へ入ろうとしたところで、二人から仮面について訊ねられた。うーん、どう説明しようか……って、そうだ、仮面には正体を隠す以外の用途もちゃんとあるんだった。


「これはファッションだよ」


「ふーん……」


「そうなのでありますか……」


 プリンとホルンは釈然としない表情だったものの、一応納得してくれた様子。


 ――ん、二人を連れ歩いてたら、生徒たちがぞろぞろと俺たちの後を追ってきていた。


「お、おいあれ見ろっ!」


「仮面の英雄さまだー!」


「生の仮面の英雄だ。すげえ……」


「…………」


 学校内はちょっとした騒動になっているようだ。まさか歩くだけでこんなことになるとは思わなかった。《仮面の英雄》の影響力がそれだけ日増しに上昇してるってことだろうか。


「てか、あの人たち何?」


「ま、まさか、仮面の英雄さまの彼女?」


「異世界人にまで手を出すとか、さすが英雄さまっ! 一夫多妻っ!」


 ちょっ……面倒臭いからとスルーしてたらとんでもない言われようだ。恐る恐るプリンとホルンの反応を窺ってみると、やはり二人とも怒ってるのか顔を赤くしていた。だから言わんこっちゃない。王女と伯爵だぞ。


「ユートは、向こうの世界の王様みたいなものなのね。プリン、納得したくないけど納得したの……」


「さすがユートどの、気品の漂う方だと思っておりました……」


「えぇっ……」


 あんなことを言われてさぞかし気分が悪いだろうに、怒鳴るどころかこんなお世辞が言えるプリンとホルンは大人だな。


 さて、どこへ行こうかと思っていたが、学校内で落ち着いて休める場所といったらあそこが一番じゃないかってことで、早速向かうことに。


「――二人とも、しばらくここで休んでくれ」


「「おぉっ……」」


 プリンとホルンが物珍しそうに保健室の中を見渡してる。薬剤等は盗まれたのかごっそりなくなっていたが、ベッドとかはそのままにしてあった。


 まあ寝具とかは配布されてて、至るところで見かけるから珍しくないしな。ついでに、『ラージスモール』で小さくして持ち歩いていた食料も元に戻して二人に渡しておいた。


「それじゃ、俺は用事があるからこの辺で」


「う、うん、わかったの……」


「りょ、了解いたした……」


 慣れない環境のせいか二人とも心細そうだったものの、仕方ない。邪悪な人間によるクーデターが起きてしまったってことで、一刻も早くなんとかしてやりたいが、今はとにかくやることが多すぎるんだ。


 俺はファグたちと旅をしている真っ最中ってこともあり、不良グループにしてもできるだけ早々に始末したい。


 念願のエルの都への到着を果たし、さらに不良どもを何人か処分すれば一段落がつくはずだし、その時点でプリンたちと一緒に王城のほうへ出発するとしよう。

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