九三話
「ユートよ、起きるんじゃ……!」
「ユート、起きて頂戴っ……!」
「うっ……?」
俺はたった今起きた振りをしつつ、『アバター』と【隠蔽】を解除する。
ファグたちのほうにいる分身に何かあったみたいなので、『ワープ』で学校から移動したばかりなわけだが、馬車の中はなんとも妙な空気になっていた。
というのも、俺の分身を起こしてきたのがキーンとリズの二人だけで、ファグとミアがしんみりとした様子で黙り込んでいたからだ。
「あれ、ファグとミアはどうし――」
「「――しー……!」」
「っ!?」
俺はどうしたのかと言おうとして、慌てた表情のキーンとリズに止められる格好になった。なんだなんだ。ファグとミアが喧嘩でもして、一触即発の状態になってるんだろうか?
「一体何が……?」
小声で問いかけてみると、まもなくキーンが気まずそうにボソボソと語り始めた。
「オッホン……ユートよ、実はもうすぐとある村に到着する予定だから起こしたんじゃがのう……そこは、ファグとミアの故郷でな……」
「そうそう。キーンの言う通り、あたしの故郷みたいに滅びちゃってるかもしれないってことで気が気じゃないのよ。だから、今はそっとしておいてあげて」
「なるほどね。了解」
ただでさえ、この世界は常にモンスターの脅威に晒されてるわけで、リズの故郷が滅ぼされたって話をついこの前聞いたばかりだし、ナーバスになるのも仕方のない話だと思える。
「「「「「――あっ……」」」」」
やがて、俺たちの驚いた声が重複する。遥か前方から建物群が顔を出したのだ。よかった……滅びてなかったみたいだ。この分だと数時間後には村に到着しそうだな。
ん? 今度は2年1組の教室にいる分身のほうに異変があったようだ。
ただ、今は昼下がりでまだ天の声が響くような時間帯じゃないと思うが、一体何があったっていうんだろう? とりあえず行ってみるか。
「「「「「――ワーッ!」」」」」
「なっ……!?」
やたらと騒がしいと思ったら、プリンとホルンが教室内にいて騒動の渦中にいるようだった。おいおい、どうしてこんなことに……って、俺の分身が二人の背後にいることでなんとなく察した。
おそらくプリンたちは学校内を散策していて、この教室を通りがかったときに俺の『アバター』がいじめられているのを目撃し、分身だって知らないから慌てて乱入した格好なんだろう。
「このお方をどなただと心得るっ!? 命が惜しくないならば、それがしが相手をいたすっ!」
「プリンも相手になってあげるんだからっ! どんな恨みがあるのか知らないけど、みんな死んじゃえなのっ!」
「…………」
ああやって守ろうとする二人の姿には感動すら覚える……って、それどころじゃなかった。彼女たちはあれが俺の分身だと知らないわけだからな。かなり不穏な空気に包まれてるし、このままじゃ俺の復讐対象が皆殺しの目に遭ってしまう。
「ちょっと待ったあっ!」
「「「「「っ!?」」」」」
プリンとホルンを含めた、驚きの視線が束になってこちらへ送られるのがわかる。
「プリン、ホルン、いじめに憤慨する気持ちはわかるが、これ以上暴れたらほかのクラスにも被害が及んで、逆に加害者になってしまう。だから、その辺でもうやめるんだ」
「「「「「……」」」」」
みんな途端に静まり返ってしまった。我ながら、さすが影響力のある《仮面の英雄》の言葉だ。
ん、ヒソヒソと声が飛んでいるから聞いてみるか。
「てかよ、なんで優斗をいじめただけで、こんな大騒ぎになったんだ……?」
「本当よね……。っていうか、優斗君とあの人たちってどういう関係?」
「露骨に庇ってたよね」
「も、もしかして仲間なの……!?」
「…………」
これはまずいな。このままだと、不良グループを含めたクラスメイトたちの俺に対する警戒心が飛躍的に増大してしまう。
そうなると、これまでみたいに散々泳がせて、調子に乗ったところで一気に突き落とすということができなくなってつまらなくなる。これは間違いなく死活問題だ。
『えー、皆さま、お聞きください!』
お、天の声が舞い降りてきた。これは、まさか……。
『報告が遅れてしまいました。ただいま、仮面の英雄さまと、彼が連れてきた異世界の方々によるパトロール中です。なので弱い者いじめ等、悪いことは決してしないようにしてください!』
やっぱりヒナが一部始終を見ていて、それで助け船を出してくれたのか。
とにかくこれで、俺たちが助けたことがただの偶然って空気になったから本当によかった……。
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