一四三話
「しょおおおれええええぇぇっ!」
「わふうううぅうぅぅっ!」
ラビとモコの絶叫がこだまするとともに、二つのサイコロがこれでもかと激しく回転する。
「…………」
彼女たちがサイコロを振るのはこれで何度目だろうか。もうかれこれ30回以上は振ってると思うし、3か6が出ればその時点で勝利するわけだが、中々決着がつかなかった。
その死闘たるや凄まじく、見てるこっちまで力が入ってしまい、いつしか手の汗を握りしめていたほどだ。
これほどまでに目当ての数字が出ないってことは、やはり反田と浅井は今まで生き残ってきただけに、相当に二人の悪運が強いのだと結論付けるしかない。
それでしか説明がつかないくらい、3と6はまるで数字自体が生きていてその場で念じているかのように、ラビとモコによる熾烈極まるサイコロ攻撃をことごとく回避していたのだ。
「「――はぁ、はぁ……」」
「ごくりっ……」
彼女たちの荒い息遣いが空間を満たす中、俺は思わず息を呑む。なんとなく……それとなくだが、もうすぐ決着がつくような気がしていた。
さあ、いよいよ最後だ。何が出るかな、何が出るかな、何が出るかな――
「「「――っ!?」」」
俺たち三人の熱視線が、止まったばかりの二つのサイコロに注がれる。
こ、これは……なんてことだ……。予想だにしていなかった展開が生まれた。
「こ、こんなことが、あるんでひゅね……」
「モ、モコ、びっくりしちゃった……」
二人の声が揃って上擦り、震えるのも納得できる。サイコロはまったく同じタイミングで止まったかと思うと、その目はいずれも6だったからだ。
引き分けに終わった格好だが、これではっきりわかったことがあった。反田も粘ったが、浅井の運の強さはそれ以上であり、異次元レベルだということだ。
「お疲れさん、ラビ、モコ。気晴らしにまた外へ行こうか」
「「ひゃいっ」」
外には俺の分身がいて、二人を待っているはず。
とにかく、決まった以上は早速やってやろうじゃないかってことで、俺はラビとモコを【ダストボックス】から出したあと、【隠蔽】を使い教室へと『ワープ』した。
なんか、向こうにいる分身が異変を知らせてきてたのでタイミングもちょうどよかった。
あれ? 俺の『アバター』がどこにもいない。まさか、窓から突き落とされてしまったのか?
だが、それなら窓の外を確認する生徒が一人くらいいるはずで、どうも様子が違う。ん、廊下のほうを見やって失笑を漏らす生徒がいた。
俺は隠れた状態のまま廊下へ行くと、分身がバケツを両手に持って立たされていた。
大人しく座ってただけのはずなのになんでこんな目に遭わされたのか、その理由が知りたくて俺は覚えたばかりのテクニック『以心伝心』を使用することに。
――なるほどなるほど……。
充分なくらいよくわかった。俺の分身は担任補佐の浅井から、ただ存在自体がうざいという理由だけで廊下に立つようにと命じられたんだ。
今はいないが、理不尽な命令が下されたとき反田も浅井の隣でニヤニヤしていた上、クラスメイトたちから拍手喝采だった。葬式ごっこよりは遥かにマシとはいえ、ちょびっとだけ苛立ったのは確かだ。
俺はすぐさま、『ミスチーフ』+『ラージスモール』=広範囲のお仕置きという式と解答を成立させる。
「「「「「ぐえっ!?」」」」」
ハッハッハ、こりゃ愉快だ。同級生たちが揃って頭を抱えたり咳き込んだりしてる上、色彩豊かになっていい気味だ――
――足りぬ……。この程度ではまだ足りぬぞ……。彼奴らの湯気あふるる臓をさらすのだ……。
「…………」
な、なんだ、今の深淵から湧き出したみたいなどす黒い感じの声は?
続きを待ってみたが、それ以上は聞こえてこなかった。ってことは幻聴だろうか。もしかしたら少し疲れてるのかもしれないな。『エリクシルヒール』でも完全に回復しきれないものがあるみたいだし、たまにはゆっくり睡眠をとることも考えたほうがよさそうだ。
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