五七話


『皆さま、ありがとうございます。おかげで、オークデビルの群れは、全ていなくなりました!』


「「「「「ワーッ!」」」」」


 ラビがあっという間にモンスターを殲滅したのち、片付けが終わった2年1組の教室に天の声が降ってきて歓声が上がる。こいつら、なんにもしてないくせに揃って得意顔だ。


「一時はどうなることかと思ったが、今回も神風が吹いてよかったなあ」


 担任の反田が涼しい顔で言ってのける。何が神風だよ。こいつはオークデビルたちが暴れてるときにどこにいるかと思ったら、教卓の後ろに隠れてガタガタ震えてたからな。あんだけHPがあるっていうのに。


『その中でも、特に仮面の英雄さま、それに、彼のにも感謝しております! どうもありがとうございましたっ!』


「…………」


 周囲がざわつくのがわかる。そりゃ、ラビの強さを実際に目の当たりにしてるから当然か。


 それにしても、ペットさまって……。上から目線のラビが聞いたら怒るかもしれないが、【ダストボックス】内にいたら聞こえないので問題ない。


 あのあと、彼女は気を失ったのでベッドで休ませてるんだ。まああんだけ大暴れしたらな。


 さて、お次は不良グループの様子を窺うとしようか。


「ふむ。オークデビルとやらは、俺様が出る幕もなく消え失せたな」


「ボスの言う通りだあ! つーかよお、あの兎耳の亜人、エロいし強いしでめっちゃ欲しいぜ!」


「あぁ、あれねー。ちょっとあざといけど、ああいうのいたら楽よね。みんなで捕まえて奴隷にしましょ?」


「浅井さん、そりゃ名案……。あの仮面の英雄のペットらしいけど、やつの大事なもんなら人質にもなるし、一石二鳥だぜ……」


「いいですねえ。ペットなら飼い主に忠実でしょうし、もし捕まえることができたら、まさに怖いものなしですねえっ! アヒャヒャッ!」


「…………」


 ったく、相変わらず好き放題言いやがって。お前らがラビを捕まえようとしても全滅するだけだっての。


 ん……やつら、一斉に天井を見上げたり周囲を見回したりしてることから、さすがに何か起きないか警戒してるっぽい。


『レイン』や『ダスト』はともかく、『タライ』に関しては誰かの悪戯だと思うだろうしな。


 そうだな、いつも同じことをやるのは面白くないし、新しい悪戯を仕掛けてやるか。まず手始めに恐怖を増幅する魔法『テラー』を作成して不良グループにかけたあと、『ダスト』を『ラージスモール』で小さくして反田のやつに使った。


「ふぁっ、ふぁっ……ふぁっくしょん――!」


「「「「「――ぎゃあああああっ!」」」」」


 虎野たちの悲鳴が教室に響き渡ったのち、周りから次々と失笑が起こる。


 俺も自分の笑い声を『サイレント』で封印するほど可笑しかった。不良グループとあろうものが、反田のくしゃみくらいでこんなに驚いてるんだからな。


 さて、今度は『ディスペル』をかけておくか。早速、元に戻った不良グループに睨まれた反田が肩を竦ませて退場してしまった。


 面白いものが見られたし、俺もついでに消えておこう。いつものようにトイレに行くと見せかけて【ダストボックス】へと入った。


「ユートさまぁー、おかえりなさいですぅー」


「あぁ、ただいま、ラビ」


「これからお昼ご飯にしますか? それとも私ですか?」


「んー……」


「私にしなさいっ」


「ははっ……」


 選択肢があるようで全然ない感じか。


「今日はサイコロにするよ」


「……サ、サイコロですぅ……?」


 俺はうなずくと、一枚の紙きれを材料にして『クリエイト』でサイコロを作り、それを『ラージスモール』で巨大化させた。


「ラビ、これを振ってほしい」


「はぁいっ、なんだか楽しそうですぅー!」


 ラビが意気揚々とサイコロを持ち上げたかと思うと、えいっという掛け声とともに転がしてみせた。


 1ならボスの虎野、2ならナンバー2の近藤、3ならビッチの浅井、4なら陰湿な影山、5なら雑魚の永川、6ならろくでなし教師の反田の処刑だ。


 いよいよサイコロが止まりそうだ。さあ、何が出るかな、何が出るかな……。

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