一六二話


「「「「「……」」」」」


 その場にいる誰もが、固唾を呑んで見守っていた。


 それもそのはずで、ラビにギルドマスターの居場所を感知してもらうべく、所有物の匂いを嗅がせた上、好物のニンジンを二本も食べさせたからだ。


 探す対象には強力な隠蔽スキルがあるらしいが、ニンジンを二本以上食べたスーパーラビなら、対象の近くまで迫ればギルドマスターの匂いをキャッチできるはずだと判断したんだ。


「お、おいしいでしゅうぅ……」


 彼女はうっとりとした顔つきでご馳走を平らげたのち、なんとも厳めしい面持ちに変化した。


「――ふうぅ……。これだからニンジンはやめられねえぜ……」


「ラ、ラビ、頼みがあるんだ」


「あぁ? なんだよ、ユート。水くせえな。オレとお前の仲だろうが!?」


「うっ……」


 ラビに腕で首を絞められたんだが、かなりの圧力を感じたから俺じゃなかったら窒息死どころか首が折れてそうだ。


「あ、あのさ、馬になってほしいんだ」


「はぁ!? お、おい、いくらなんでも大胆すぎるぜ。こんな町中でおっぱじめようってんのかよ!?」


「い、いや、そういう意味じゃなくて……。ギルドマスターの匂いを感知するまで、ラビが俺たちの乗る馬車を引っ張って町の中を走り回ってほしいんだ」


「へ!? ま、まあユートの頼みだし別にいいけどよ、暴走して何もかも破壊しちまっても知らねーぞ?」


「それなら大丈夫。俺がを使うから」


 というわけで、俺はさっき作ったばかりの新しい魔法『インヴィジブルマン』を『ラージスモール』によって馬車を含めた自分たち全体にかけた。これは一定時間透明化するもので、これで障害物をすり抜けることが可能だ。【隠蔽】でも代用できるとはいえ、【魔法作成】のレベルも上げておきたい。


「ウ、ウ、ウ――」


「「「「「ウ……?」」」」」


「ウラアアアアアアアアアアアアアァァァッ!」


「「「「「っ!?」」」」」


 ラビの絶叫とともに馬車――いや、が発進し、視界が目まぐるしく移り変わっていく。なんてスピードだ。ちなみに、【支援術師】のミアにバフを使ってもらったので速度はさらに跳ね上がっていた。


「と、とんでもねえな、こりゃ……」


「こ、怖いよおぉ……」


「き、気分が悪くなってきたわい……オエッ……!」


「ちょ、ちょっと、あたしのほうを向かないでよ、キーン……!」


「ふ、ふえぇっ、ラビお姉さま、すごーい……」


「ははっ……」


 尋常じゃないスピードを前にして、俺も笑うくらいしかできなかった。こうなるとニンジンをもう一本追加させたらどうなるのか興味が出てくるが、それはよほどのことがない限りやめておこう。


「オラオラッ! どうだってんだよ、オレの走りっぷりはよ!? イケてんだろ、ユートオオォォッ!?」


「あ、あぁ、イケてるよ、ラビ……」


「ひゃっほおおおおおおおおぉぉぉっ!」


「…………」


 さらにご機嫌になったのか加速するラビ。暴走族かよと内心突っ込む中、ファグたちはもう周りを見ることもやめて青ざめていた。なんかたまに兎車ごと大きく跳ねてるし、まともに景色に目をやったら気分も悪くなるはずだ。俺でさえ目眩がしそうなくらいだし――


「――お、。ここだあぁっ……!」


 おお、兎車が停止したと思ったらこの台詞。遂にギルドマスターを発見したらしい。まだ探し始めてから30分も経ってないっていうのに、さすがはスーパーラビだ……。

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