一八二話


「い、嫌ぁ……」


 浅井の腹は、もう目に見えて大きくなっていた。オークデビルの繁殖力は凄まじいな……。


「このままだと、化け物の赤ん坊がお前の腹を食い破って出てくるだろう。今の気分はどうだ、浅井?」


「ひっく……。助けて……お願いだから助けてよおぉっ!」


「助けてって……お前なあ、俺が本当に助けるって思ってるのか? お前が今まで俺にしたことを考えろよ」


「……ぐすっ……しょ、しょ……」


「なんだ? 言いたいことがあるならはっきり言えよ!」


「しょ……小説を燃やしたことは、あ、謝るから、ご、ごめん。でも、そんなに怒ってるなんて思ってなくて……。だって、如月君がいじめられるのなんていつものことだし、あの件だって大して気にしてないって思って……」


「…………」


 悪党ってやつは、どうして決まってこういう苦しい言い訳をするのか。


「近藤みたいに、冗談のつもりでしたってかあ!?」


「ひぃっ……」


 俺が威圧的に浅井の顔を覗き込むと、やつの体全体がビクッと震えるのがわかった。相当に怯えてるようだな。これ以上の面白い反応は期待できそうにないか。


「わかった、助けてやろう」


「えっ、ほんとぉ?」


「ああ。だが、お前の腹の中の子も助ける」


「え、な、なんで? じょ、冗談じゃないわよ、腹を食い破って出てくるんでしょ!? こんなやつ、さっさと殺してよっ!」


「おいおい、酷いな。愛しい我が子だろう」


「い、嫌、そんなわけない。こんなのあたしの子じゃない!」


「いや、正真正銘お前の子だ。お前はその子と一生、一緒にいることになる」


「へ……? そ、それはどういう意味……?」


「すぐにわかるさ……っと、その前に、お前の仲間たちがどうなったのか詳しく教えてやろう」


「…………」


 虎野たちの現状を伝えるうち、浅井は白目を剥いて気絶してしまった。精神的なストレスが限界まで達したってことだ。まあ、本当の地獄を見るまで、少しだけ寝かせておいてやろう。俺は優しすぎるのかもしれない……。




 あれからすぐに2年1組の教室に戻ると、散らばっていた椅子や机が綺麗に片づけられていた。それだけ今回の件は余程こたえたってことだな。普段の行動を少しでも改めようってことなんだろう。喉元過ぎれば熱さ忘れるってやつで、すぐに本性を出すとは思うが。


『2年1組の皆さま、教室をちゃんと綺麗にされたということで、やればできるとはこのことですねっ!』


 お、早速ヒナから褒められてる。なんか幼児扱いされてるみたいでみんな気恥ずかしそうだ。


『仮面の英雄さまもこれにはお喜びということで、またしてもがあるそうです!』


「「「「「ザワッ……」」」」」


 なんだなんだと周囲がざわめき始める。鶏、昆虫標本、サンドバッグときてるだけに、今度は何が来るのか関心があるようだ。


「――フンガーッ!」


「「「「「っ……!?」」」」」


 来た来た。ジャイオンが重そうに抱えてきたのは、結婚式のイミテーションケーキを思わせるバカでかい蝋燭だ。


 それを教壇の隣に置くと、俺のペットは行儀よく一礼して教室から立ち去っていった。


 そう……これこそが浅井六花の変わり果てた姿なのだ。やつの所持装備である聖女の衣の効果で修復し続けることもあり、まさに永久機関の蝋燭ってわけだ。百年経っても燃え続けるかもしれない。愛しい我が子とともに。


(……アツイ……アツイヨォ……)


(……ブギィイ……)


 浅井とその子供の悲鳴をテレパシーで聞き、俺はそこでようやく満たされた気持ちになった。遂に燃やされた小説の仇を取ることができたんだ。


 今夜はオークデビルをラビに調理してもらってみんなで食べるとしよう。もちろん、結合部を初めとする、食べられない箇所はブラックホール行きだが。


 さて、浅井の処刑が終わったので次はクラスメイトたちの処刑だ。


 これに関しても、壮大なイメージは既に出来上がっている。傍観という、最も卑劣な形でいじめに加担していた連中に相応しく、最大級のざまあといえるものだ。


 そういえば、がまったく聞こえなくなってるな。やっぱりただ単に疲れてたんだろうか。『アンサー』でも答えがなかったし。


 ん、折り紙が落ちてきた。ヒナからの手紙だ。


『ユートさん、毎日のお勤めお疲れさまです♪ ところで、昨晩を見たんです。自分が血まみれになってて、はっとして周りを見たら大勢の人の死体があって……。なのに、私は高笑いしてたんです。本当におかしいですよね……』


「…………」


 もしかして、ヒナは人々を虐殺していた頃の記憶を取り戻しつつあるのか……? 手紙にはまだ続きがあった。


『なんだか怖いので、今から私の部屋まで来てもらえませんか? ゴキブリは絶対に入れないようにしておいたので、もう誰にも邪魔はされないですよ♥』


「……は、はは……」


 俺にはヒナのほうがよっぽど怖かった。かといって、彼女にとって不安な状態が続けば記憶を取り戻してしまう可能性もあるし、そう考えると行くしかないんだよなあ……。


________________________________


※あとがき


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学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します 名無し @nanasi774

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