一八一話


「――来た来たっ。早速、間抜けな如月君にあたしたちの仲を見せつけましょっ。んんっ……。せ、せんせえっ、大好きいっ……」


「うむ。私もそう思っている」


「んもう、反田君ったらお芝居下手すぎっ」


 浅井といちゃついてる反田は分身なので棒読みなのは仕方ないとして、俺の『アバター』は台詞を言う必要がないこともあり、こっちに近付いてきて呆然と両膝を崩すところなんかは本物の人間にしか見えなかった。


「ああん、興奮してきちゃったぁ……。ほんと、間抜けすぎでしょ。あたしがあんな惨めな存在と付き合うわけないのにねえ。キャハハッ……! 反田君もそう思うでしょっ?」


「…………」


「反田君?」


 そろそろネタバラシしてもいいだろうってことで、俺は反田と自分の『アバター』を同時に消去してみせた。


「え、え……? 反田君? 何これ、一体どういうこと……?」


 浅井が乱れた服装のまま、周囲をキョロキョロと見回し始めたので俺は笑い声を上げそうになり、『サイレント』で封印した。登場人物がいきなり二人も消えて一人になったんだから、やつがここまでうろたえるのも当然か。


「ヴァ、ヴァン様、来てっ……!」


 浅井は堪らずといった様子で従魔のヴァンパイアを召喚してきたが、俺はやつの狼狽する様が面白かったのですぐに『バニッシュ』で消してやった。


「……え、え、え……?」


 浅井のやつ、目が泳いで若干正気を失いかけてるな。気が狂ってしまったら面白くなくなるってことで、ほとんど間を置かずに俺自身に『ディスペル』をかけ、その場に登場してやった。笑顔と拍手を添えて。


「き、如月、君……? な、なんなの、これ? あたし、もしかして夢でも見てる……?」


「夢だって? これは紛れもない現実だよ、浅井六花」


「ど、どどっ、どういうこと……?」


「お前は俺の掌の上で踊らされてたんだよ」


 俺は仮面をつけ、浅井に向かってスマホを投げつける。


「そいつで俺のステータスを見てみろ」


「――う、嘘……如月君が、仮面の英雄……?」


 画面を見てからほどなくして、ガタガタと震え始める浅井。


「……お、お、お願い……許して……」


「なんだって? よく聞こえないな」


「お、お願いだから許してよぉ……! な、なんでもする。奴隷にでもなんでもなるから……。毎日、好きなときにあたしの体を使ってもいいから……!」


「なるほど。そうやって今まで男をたぶらかしてきたんだな。よし、じゃあ早速使わせてもらおうか」


「う、うん」


「だが、これからお前とヤる相手は俺じゃない」


「……へ?」


 俺はそこで【ダストボックス】の冷蔵庫に入れておいたものを『サモン』で呼び出し、『ディスペル』と『エリクシルヒール』で元に戻してやった。


「――ギギギッ……」


「……そ、そそそっ、それって、もしかして……」


「驚いたか? こいつは、以前群れをなして学校を襲ってきたオークデビルだ。このときのために一匹確保して、今まで生かしてたんだ」


「い……いやあああ!」


 何度も転びそうになりつつ。旧校舎のほうへと逃げ出す浅井。これも想定内だ。見てろ。これからが本番だぞ……。


『テラー』、『ラージスモール』、《仕置き人》、《称号コレクター》、そうしたものも相俟って、浅井の恐怖心はこの上なく増大し、今頃は心臓バクバクだろうとほくそ笑む。


「グギュウウウウウウウゥゥッ!」


「いやああぁぁっ! 来ないでえええぇぇえっ!」


 俺たち以外誰もいない旧校舎にて、興奮状態のオークデビルが血眼で浅井を追いかける。捕まれば犯され、命はないとわかるからこそ必死なんだろう。失禁して泣き喚きながら、時々派手に転びつつも逃げ惑う。


「――はぁ、はぁ……。い、いない……?」


 一番奥の教室へと逃げ込み、机の下に隠れておずおずと周囲を見渡す浅井。


「ひっ……!?」


 俺がそこに登場させたのは、やつの従魔であるヴァンパイアだ。


「……ヴァ、ヴァン様……。よかった、生きてたのね――」


「――グヒェヒェ……」


「……えっ……? う、嘘……」


 浅井が安堵した表情になったのも束の間で、従魔が本来の姿であるオークデビルに戻るというオチを用意してやった。見た目だけ『ボディチェンジ』で変えておいたんだ。


「ブヒイイィィッ!」


「い……いやあああああぁぁぁぁっ!」


 絶望の色に染まりながらとうとう捕まり、オークデビルの玩具にされる浅井。気絶しないよう、気が狂わないよう、『エリクシルヒール』と『セージ』をかける配慮も忘れない。こっちの目に悪いのでさらに『モザイク』も必須だ。さあ、楽しい残虐ショーはまだまだこれからだ……。

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