一八〇話
「浅井六花よ、そんなに私のことが好きだったというのかね?」
「うん……あたしね、先生がいなくなってはっきりわかったの。教師の立場なのに生徒の葬式ごっこに加担する鬼畜な反田君だけど、そういうところが大好きなんだって……」
「鬼畜って……。浅井、お前なあ、それが先生に対する優秀な生徒の発言だというのか?」
「えへへ……」
鬼畜外道な教師が好みとか、本当におぞましいやつだ。反田を演じている俺自身、吐き気を催してくるほどだった。
「先生? 顔色がよくないけど大丈夫?」
「だ、大丈夫だ。浅井のほうこそ、髪や制服が少し乱れてるが何かあったのかね?」
「そ、それがね、あたし……ひっく……」
「ん、どうしたのだ、浅井六花。詳しく話したまえ」
「う、うん……。反田君がいなくなってからね、あたしがクラスメイトからいじめの標的になっちゃって、それで、毎日辛くって……」
「うぬう。それはけしからんな……。だが、私が戻ってきた以上、そういうことは絶対にさせないから安心したまえ」
「うんっ。あ、そうだ、これもぜーんぶ如月優斗が悪いってことにしちゃって」
「それはどういうことだ? あいつがまた何かしでかしたのかね?」
「あいつね、あたしにこう言ったの。『俺はどうせ弱いし、いずれ死ぬだろうから最後に可愛い女の子とヤりたい。それで、自分があんたに代わってクラスメイトの標的になるように仕向けるから、付き合ってほしい』って土下座までしてきて……」
「き、如月優斗めえぇっ、私の大事な生徒、いや、恋人に手を出そうとするとは……。あいつがいじめられるのは、腐った性根に問題があるということがこれで証明されたようなものだな!」
いかにも畜生の反田が言いそうな台詞だと我ながら思う。
「キャハハッ。反田君らしくて好きだよ、そういうとこっ」
これには同類の浅井も大層ご満悦の様子。
「グ、グフフッ、じゃあ、早速ヤるか? お前には散々お預けを食らっていたのでな。さ、眼鏡をかけたまえ」
「うんっ。あ、ちょっと待って。その前に……」
「ん?」
悪そうな顔で耳打ちしてくる浅井。
「どうせにするにしても、間抜けな如月優斗の前でいちゃついて、小さな脳みそを破壊してやりましょ♪」
「…………」
「先生? そんなにびっくりした顔しちゃってどうしたの?」
「あ、いや、なんでもない。ムフフッ、それはやつにお灸を据える意味でも非常にいい案だな。さすが、浅井は私のクラスで一番賢いだけある!」
「でしょー。あいつさ、なんか用事があるとか言ってたけど、旧校舎のほうへ行ったしここにいればすぐ会えると思う」
確かに、中々面白い案だと思う。まさか、処刑される側がショーの演出までしてくれるとはな。
まさにターゲットを天国から地獄へ突き落とすという意味では、これほどの演出はないだろう。
とりあえず俺はこれ以上こいつと抱き合いたくないし、第三者としてショーを楽しみたいので【隠蔽】状態となり、間男役も寝取られ役も『アバター』にやらせることにした。
反田の分身には『浅井と適当にいちゃつくように』、俺の分身には『こっちへ歩いてきて反田と浅井の近くまで来て呆然とした顔で座り込むように』と『テレパシー』で『命令』すればいいだけだから楽だ。
そういうわけで、俺は密かに『アバター』を二つ作って自分の分身は『ワープ』で廊下の向こうに飛ばし、反田の分身を浅井に抱き付かせた。もちろん、二人がいちゃつくシーンは目に毒なので『モザイク』をかけることも忘れない。
さあ、これで準備は完了した。あとはもう、一人の観客のような気分になってショーを観賞するだけだ……。
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