一七九話


 早速、俺は浅井六花を処刑する準備に入ることに。


 まず、やつの鬼畜外道な本性を暴き出してやるべく、『アバター』を使って浅井を呼び出してみた。教室の入り口に立って手招きしたのち、新校舎と旧校舎を繋ぐ廊下へと誘い込み、『ループ』の魔法を使って誰も入ってこられないようにする。


【隠蔽】状態の俺が目的地に着いてからまもなく、浅井の姿が見えてきた。まずはやつのステータスを久々に覗いてみるとしようか。


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 名前 浅井 六花


 HP 314/314

 MP 827/827


 攻撃力  35

 防御力 404

 命中力 120

 魔法力 827


 所持スキル

【回復師】レベル14


 所持魔法

『ヒール』『リカバリー』『サンクチュアリ』


 所持装備

 聖女の衣


 称号

《スーパービッチ》《性女》《脳を壊す者》《ヒール》

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「…………」


 へえ、レベル14まで上げてたのか。意外と頑張ってたんだな。まあ仲間内でしか回復魔法は使ってないんだろうけど。称号は予想通り浅井らしいものばかりだった。


 所持装備の性女……いや、聖女の衣は、着ているだけで自然治癒力が大幅に上がり、自動的に傷口を修復してくれるんだそうだ。これなら、拷問するときにいちいち回復する手間が省けそうで便利だな……っと、あいつがすぐ近くまで来たからショーを始めるか。


「――如月君、例の話、考えてくれたみたいね」


「ああ」


「それで、答えは?」


 浅井のやつ、今はいじめられてる境遇の割りに余裕の表情だし、俺が容易く誘いに乗ると確信してそうだな。それだけ舐められてるってことだが。


「わかった。俺はお前と付き合いたいから、いじめられていたら止めることにする」


「わぁっ、如月君、だーいすきっ」


 分身の棒読みの台詞に対し、照れているとでも解釈したのか、警戒する素振りすら見せず邪悪な笑みを浮かべてみせる浅井。こいつ、目が全然笑ってないぞ。もうこの時点で、いじめを止めたら付き合うなんて話は真っ赤な嘘ですって告白してるようなものだ。


 もし性女に対するいじめを止めた場合、したり顔で約束を反故にされるのはわかっている。そこから地獄に突き落とすのも面白いとは思うが、もうそこまでする必要はないと考えている。


 今すぐにでも浅井の化けの皮を剥がし、醜い本性を剥き出しにした上で泥を塗りたくる方法があるのでこれから実行に移すつもりだ。


 現在、口約束とはいえ俺たちは恋人同士になる予定であるのは間違いない。それを利用してやるんだ。


「俺さ、旧校舎のほうでちょっと用事があるから行ってくるよ」


「うん。じゃあ、先に教室に戻ってるね。如月君が帰ってきたとき、あたしがいじめられてたらちゃんと守ってね? お願いっ」


「ああ、わかった」


 鼻歌交じりに新校舎のほうへと歩いていく浅井。スキップでもやりそうなほど上機嫌だ。間抜けな如月君が騙されてくれたと思ってそうだな。んで、それをあとでクラスメイトに言い振らし、いじめの標的からは完全に脱することができるってわけだ。


 だが、そうはいかない。お前の狡賢い考えなんてとっくにお見通しなんだからなあ。


 さて、そろそろショータイムを始めるとしようか……。俺は自分の分身を消し、『オールチェンジ』で担任の反田憲明に化けると、【隠蔽】を解除して浅井の背中を追いかけることに。ま、『ループ』を使ってるのであいつはどうしたって教室には着かず、少し歩けば追いつけるわけだが。


「――ププッ……あっさり騙されちゃって、本当に間抜けな如月君らしいわねえ。あたしがあんなキモい陰キャと付き合うわけないでしょ」


「…………」


 やつに近付いた途端、本音丸出しの独り言が聞こえてきたが、もうそんなことはわかりきってるのでどうでもいい。


「待ちたまえ、浅井君」


「へ……?」


 俺の呼びかけに対し、浅井がはっとした顔で振り返ってくる。


「は、反田先生……?」


「突然いなくなって心配させたな、浅井君。どうしても抜けられない用事があって、それを済ませてきたところなのだ……」


「……そ、そうなんだ……。ぐすっ……。あ、会いたかったぁ……!」


 浅井が目を赤くして抱き付いてくる。事情を知らない者がここだけ見たら感動的な場面に見えるだろうが、これこそが違う意味で目を覆うほどの生き地獄の始まりなのだ……。

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