一七八話
ラビとモコが協力してくれたおかげで、俺はマウンテンゴーレムの進路を変更させることに無事成功した。間一髪だったが、学校が潰されずに済んで本当によかった……。
そういうわけで二人の労をねぎらってからファグの操る馬車のほうへ送ったあと、2年1組の教室へ帰還することに。
というのもファグたちが目的地へ着くまでは充分時間があるし、同級生らの様子を確認するためというのと、そろそろあいつを処刑しようと思っているからだ。
「――た、助かったのか? 俺たち……」
「も、もうダメかと思ったぁ……」
「ぼ、僕も……」
「私も……」
「…………」
教室内には、隅に固まってすっかり縮み上がった様子の生徒たちがいた。それも当然か、永川のものを含めた椅子や机だけでなく、黒板まで倒れていることから相当に強い振動が続いたことが窺える。
なお、サンドバッグは今も余韻で大きく揺れており、鶏は横倒しになった籠から必死に抜け出ようとしたのか、頭が挟まった状態で気絶していた。そういや標本に飾ってあった元人間のゴキブリがいないと思ったら、不気味な人影の上でひっくり返った状態だった。まさに類は友を呼ぶってわけか。あとで元に戻しておこう。
『――学校の皆さまに朗報ですっ。仮面の英雄さまがまたしてもやってくれました……!』
「「「「「おおおおおぉっ!」」」」」
ヒナの台詞の直後だった。クラスメイトから歓声が沸き起こったかと思うと、仮面の英雄に対する称賛の声で溢れ返った。今までもそういうことはあったとはいえ、窮地から脱したためか心の底から感謝してる感じが伝わってきた。
人はここまで変われるものなんだな。素晴らしい。涙が出そうだ……。とはいえ、もう遅い。葬式ごっこの共謀者でもあるお前らは、自分にとって最大の報復対象であり、学校を救ったのもこの手で制裁するためだからだ。
さて、その前に例のやつを始末しないとな……って、あれ? 姿が見当たらないと思ったら、浅井六花は俺の分身の隣にいた。しかも、暗い笑みを浮かべつつ何やらブツブツと呟いている。なんだ?
最近は自分の代わりにあの女がいじめの対象になってるし、その鬱憤晴らしのために何か呪いの言葉でも浴びせかけたんだろうか? 陰湿な浅井のことだからありうる。少し経って浅井が元の席に戻ったあと、俺はやつが何を言ってきたのかを確認するべく『以心伝心』を分身に使用した。
『ねえねえ、如月君……。あたしたちってさ、今や可哀想ないじめられっ子同士でしょ……』
『ああ、そうだ。俺たちはいじめられている』
やつの薄気味悪い笑みとともに、謎の台詞が分身に投げかけられる。だからなんだっていうんだ。
『それでね、あたし……以前はいじめっ子の立場だったけど、いじめられてた如月君の気持ちも少しは理解できたって思うんだ……』
『…………』
浅井から滲み出る怪しさの前には、分身すらも黙り込んでるし警戒してそうだ。
『そこでね……相談したいことがあるんだけど……』
ん? 相談だと? 俺に対しての今までの仕打ちから考えると厚かましいにもほどがあるぞ。
『今度あたしがいじめに遭ったら、それを止めてほしいの。ね、いいでしょ? そしたら如月君がまた標的になっちゃうかもしれないけど、そういうのは慣れてるだろうし……』
おいおい、それって要するに俺を身代わり、スケープゴートにしようってことじゃないか。卑劣極まりないやつだな。誰がこんなふざけた要求を呑むんだ。
『もちろん、タダとは言わない。モテない間抜け……じゃなくてっ、如月君のことだから、とことん女日照りでしょ? もし勇気を出して止めてくれたら、付き合ってあげてもいいよ……』
『考えておく』
『うん、ありがとうね』
「…………」
分身には、何か頼まれたら『考えておく』と言うように『命令』してあるとはいえ、本体の俺だったら即座に却下してそうだ。それくらい、想像しただけで寒気がする話だった。
というか、その場凌ぎの嘘にしか見えないし、こんなんで騙されると思ってるのか? 浅井はクラスメイトにいじめられたことで精神的に病んできてるみたいだし、やはりこれ以上弱り切ってしまう前にお仕置きを済ませるのが正解のようだな。
もうすぐ最大級の残虐ショーを用意してやる。浅井六花、俺の小説を侮辱しただけでなく、燃やしたことを必ず後悔させてやるからなあ……。
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