一七〇話


「「「「アハハッ……!」」」」


 予想以上に早くエントリーを済ませることができたこともあって、会場をあとにした俺たちは帰りに近くのカフェでまったりと寛いでいた。


 窓の外では、忙しなく参加者たちが行き来する姿が続いていて、言い方は悪いがまさに高みの見物といったところだ。


「それにしても、ユートってほんっと強すぎなの。人の皮を被った化け物みたいだから、最初から予選通過でいいんだもん。ぷいっ」


「プリンさま、それがしも同意です、ユートどののように比類なき強さなら、予選の相手などまさに赤子の手を捻るも同然であります」


「わたくしめも、お二人の意見に賛同いたします。はっきり言って、ユートさまだけはいきなり決勝でもいいのではないですかねえ」


「い、いやいや、みんな、まずいって。こんなところでそんな話をしちゃ……」


「「「あっ……」」」


 プリンたちも俺の言ってることが理解できたらしく、気まずそうに黙り込んだ。というのも、ここは会場最寄りのカフェなだけあって周りにいる客の中にも参加者はいるだろうからだ。まあそれだけ俺が立ってるだけで牛男をぶっ飛ばしたのが印象的な出来事だったってことなのかもしれないが。


 ただ、俺は謙遜しつつも内心はお試しの意味合いも兼ねて、負けそうになるまでは『厳格教育』を施した『アバター』を予選に参加させるつもりでいる。当然、どんな内容だったかはあとで『以心伝心』を使って調べるつもりだ。


 別にほかの参加者を舐めてるわけじゃなく、自分にはほかにもやるべきことがあるし、《称号コレクター》の効果も合わさった分身がどこまでいけるか見てみたいっていうのもある。


「ご馳走さま……ん? 俺の顔に何かついてる?」


 目の前の食事を食べ終わったあと、プリンが身を乗り出して俺の顔を見つめてくるので驚いた。なんだ?


「あれぇ……? ユート、はしないの?」


「いつもの儀式?」


「ほら、カチャカチャッ」


「あー……」


 空になった皿をスプーンで突くやつか。いつもの儀式って思われるくらい恒例なんだな。しょうがないのでやると、プリンがキャッキャと笑い始めた。まあいいか……。


「そういえば、ユートどのはいつもより饒舌なような……」


「え……」


「それ、わたくしめも思っていました。それに、今日のユートさまは普段より表情も豊かでございますね」


「…………」


 プリン、ホルン、エスティアの鋭い観察力を前に俺はタジタジになっていた。まあ今ここにいるのは『アバター』じゃなくて本体なんだから仕方ない。三人とも、それだけ普段から俺の分身のことをよく見てたんだな。


「今日はあれだよ。武闘大会にエントリーするってことで、いつもよりテンション上がっちゃって」


「「「なるほど……」」」


 みんななんとか納得してくれた様子。


 さて、食べ終わったしそろそろカフェから出ようか――


「――――っ!?」


 そう思った直後だった。俺は窓の外を歩く、を目にして固まってしまった。


 あ、あれは……神級モンスターのジルじゃないか? 顔があいつと瓜二つだった。俺は急いで遠ざかろうとする彼女に対し【慧眼】を使おうと試みるも、人ごみの中に紛れ込んで見失ってしまった。いや、まさかな。そもそもあいつが武闘大会に参加する理由がないと思うし……。


「ユート、そんなにびっくりした顔して、どうしたの?」


「どうされたのでありますか、ユートどの?」


「ユートさま?」


「……あ、いや、なんでもないんだ」


 そう、なんでもないはず。『アンサー』でさっき見かけたやつがジルかどうか確認しようとしたものの、神級モンスターを対象にしているせいか質問することさえも叶わなかった。神に関する質問は、たとえ相手が白だろうと全てブロックされている感じだ。


 こりゃ、間接的に訊ねることも無理っぽいな。結局、あいつがジルなのかもわからずじまいだ……っと、教室にいる分身に何かあったみたいだから行ってみるか……。

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