二二話
「…………」
あれ? 自分の目から謎の液体が……。
山の麓にて、ホルンとプリンを乗せた馬車を見送った俺は、【隠蔽】スキルを自身に使うと『ワープ』で学校へ戻った。
――お、武装した生徒たちが廊下を走り回っててやたらと慌ただしいな。
しかも、いたるところに椅子や机で作られた防壁、すなわちバリケードがあって、学校内はこれでもかと物々しい空気に包まれていた。まあモンスターの群れが来るまであと数時間しかないし仕方ない。
そういや、不良グループはどうしてるのかと思って2年1組の教室へ『ワープ』してみる。って、なんだ、連中はみんなバリケードの中で固まっていて、仲間のゴーレムらが監視していた。
「ふむ、やはり俺様は最後の希望としてここにいたほうがいいと思うのだ」
「おいらもそう思うぜっ! ボスの首が取られたら、それこそ終わりだあ」
「そうよねぇ。あたしも虎君と近藤君の意見に全面同意っ。足軽じゃあるまいし、そういうのは如月君みたいな間抜けに任せておけばいいよ」
「確かに……。浅井さんの言う通り。クソ優斗みてえな雑魚どもの命と、俺らの命じゃ価値が全然ちげえしよ……」
「その通りですっ! なんせ、僕らは神に選ばれた英雄たちなのですから……アヒャヒャヒャッ!」
「…………」
相変わらず腹立つなあ。要するにほかのやつらを囮にして、襲ってきたモンスターが弱ってきたタイミングで美味しいとこ取りしようっていう魂胆だろう。こんな卑怯者どもが英雄になろうなんて笑わせる。
そういうわけで、俺は『ドライ』と『ラージスモール』の魔法を使用し、強めの風を当ててバリケードを崩してやった。
「「「「「――どわっ!?」」」」」
さて、ほんの少しはスカッとしたし【隠蔽】を解除して【ダストボックス】内に戻るか。
「あっ、ユートしゃま、おきゃえりなひゃいっ。ひっく……」
「ああ、ただいま、ラビ……って、酔っ払ってる!?」
「ふぁい……? ひっく……」
ラビがフラフラとした足取りで近寄ってきたが、顔も紅潮してるし明らかに酔っ払いの挙動だった。
酒なんて飲ませてないのに、なんで……って、そうか、あのニンジンが怪しいな。投げたやつの悪戯で、アルコール漬けでもされてたんじゃないか?
でも、それなら俺も食べたのに酔わないのはおかしいな。ということは微量だったけど、ラビの体が敏感すぎたのかもしれない。
ってなわけで、『キュアー』の魔法で酔いを醒ましてやる。
「どう? もう平気?」
「あっ……大丈夫みたいでしゅっ」
若干舌が縺れてるのでまだ後遺症はあるみたいだが、顔の赤みは引いてるし、これで心配はいらないだろう。
さあ、もうそろそろモンスターが襲来する頃だから出発しないとな。
「ユートしゃま……私を連れていきなしゃいっ」
「えっ」
「今日はぁ、しばらく会えなかったのれぇ、お側にいたいのれふ……」
「うーん……」
弱ったな。【隠蔽】で隠れつつモンスターを撃退しようと思っていたのに。
俺が戦いに集中している間、ラビが変態に拉致されやしないかって余計な心配が増える。
戦闘が終わるまでここにいてもらおうかと思った矢先、名案が浮かんだ。そうだ、あの手があった。
「あっ、ユートしゃま、格好いいれふっ」
「そ、そうかな?」
ってなわけで、俺は『クリエイト』で仮面を作り、被ることに。これなら俺が如月優斗ってわからないから堂々とラビと一緒にいられるし、仮面をつけた俺が側にいることで男子除けにもなるはずだ。
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