一三九話
「いやー、マジですげー楽しみだなあ」
「ホントだよお。僕、ハートが高鳴ってるもん」
「うむ、わしのドキもムネムネするわいっ」
「ムネムネするわね……って、変なこと言わせないでよ、キーン!」
「うふふっ。ワキュワキュしましゅねえ」
「わふうっ」
「…………」
俺はたった今、教室からファグたちの元へと戻ってきたわけだが、置いてけぼりを食らうというのはまさにこのことかと実感していた。
彼らが楽し気に声を弾ませながら歩いてるのはわかるものの、どこへ向かっているのかがさっぱり理解できないからだ。
その上、【隠蔽】状態も解除しておらず、俺の『アバター』がラビとモコに挟まれつつ時折相槌を打っていたため、取り残された感が一層強くなっていた。
今まではどことなく人形みたいな不自然な動き方をしていたもんだが、【伝道師】のテクニックの一つ『命令』が効いてるのか結構自然な感じでヌルヌル動くなあ。
『命令』でどこへ向かうのか訊ねさせようかとも思うも、今更どこへ行くのか質問するのは不自然だと思い直し、俺は『アンサー』の魔法に頼ることに。
(ファグたちは今どこへ向かってる?)
(冒険者ギルド)
なるほど、冒険者ギルドだったか……。そういや以前、最初の村の冒険者ギルドでエルの都についての話をしたことがあって、そこでギルドマスターとS級以上の階級がどうの話してたな。
あくまでも、人が多いはずだからそれ以上の階級も存在するんじゃないかっていう推測に過ぎなかったものの、都の賑やかさを考えると充分ありえそうだ。
さて、いつまでも俯瞰せずにそろそろ本物のユートとしてついていこうかと思ったとき、楽しそうに周囲を見回していたラビがはっとした顔で一人だけ立ち止まるのがわかった。なんだ?
「おう、ラビ、どうかしたのか?」
「ラビ、どうしたのお?」
「ラビよ、どうしたんじゃ?」
「ラビ、どうかしたわけ?」
「ラビお姉さま、どうかしたー?」
ファグたちも気付いたのか、次々と立ち止まるとともに振り返った。
ラビの視線は人だかりに向けられており、一体何に反応したのかがよくわからなかったが、相手のほうも気付いたのかこっちへ近付いてきて、それでようやく正体がわかった。
三人組の亜人がいたんだ。それも、兎耳の。【慧眼】で確認してみたら、なんといずれもキャロット族で名前が『ラビ』だった。
おいおい……みんな同じ名前なんて、いくらなんでも不便すぎじゃないか?
「そこにいるの、もしかしてラウなのか?」
「やっぱりラウちゃんだ、久しぶりー!」
「ラウちゃん、元気だった!?」
「はううっ。お久しぶりですうぅう。私は見ての通り元気ですよぉっ!」
「「「「「……」」」」」
俺たちは呆然とラビたちの再会を見つめる格好になった。ラビはラウちゃんって呼ばれてたんだな。待てよ? ってことは……。
「ぐすっ……ラオ君、ランちゃん、ララさん、もう二度と会えないかと思ってましたぁ……」
やっぱりそうだったか。ラビの台詞によって同じ名前の者同士の呼び方が判明した。ラのあとに適当に何かつく感じなんだ。ラビは仲間内でラウちゃんなんて呼ばれてたんだな。
まさにカルチャーショックを受けた気分だ。それはファグたちも同じなのか、びっくりした顔を見合わせていた。
っと、プリンたちの朝食が終わったらしく、あっちの分身が知らせてきた。
ラビたちの話が終わればあとは冒険者ギルドへ行くだけだろうし、こっちはこのまま分身に任せて向こうへ行くとするか……。
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