二五話
「それじゃ、行ってくるよ、ラビ」
「はぁーい、ユートさま、なるべく早く帰ってきなさいっ」
「ははあ」
朝食後、俺はいつもの如くラビの前でひざまずいてから【ダストボックス】を出た。もうすっかり酔いが醒めたみたいでよかった。今後、投げ込まれたものには注意しないとな。
「仮面をつけたやつ、凄かったなー」
「うん。あの人のおかげで助かったようなもんだよね」
「憧れちゃうよねえ。どんなスキルを持ってるんだろ? 魔法系なのは間違いないと思うけど」
「…………」
たまには廊下を歩くのもいいと思って『ワープ』を使わず教室へ向かっていたら、恥ずかしくなるくらい俺の話題で持ち切りだった。
「ほら、ちょうどあいつみたいに制服姿だった」
「あ、本当だ。てかあいつじゃね?」
「マジ!?」
「うっ」
まずいな、今の俺は仮面をつけてないとはいえ、同じ制服姿だったのはまずかったか……。
「てか、あれって例のいじめられっ子じゃん」
「あー、確か如月優斗ってやつだよね」
「うん。噂だけど、いじめられるのも当然なくらい性格が最悪みたいで、机がバ〇の家みたいになってるらしいよ」
「うわー……それじゃ、自業自得ねー!」
「…………」
なるほど、俺の性格が最悪ってことにされてたのか。
普通に考えたら遺影を作ってきた反田を筆頭に、毎日葬式ごっこをするやつらのほうが性格は悪いと思うんだがなあ。
やられっぱなしじゃアレなので、俺は『ゴシップ』という噂があっという間に広がる効果の魔法を作り、使用して反田や不良グループの悪い噂を広めてやることに。
「――ねえねえ、その如月優斗って人、むしろ被害者じゃない? そのクラスって、担任の反田とか不良の虎野って人とか、凶悪なやつらが多いみたいよ」
「「「えーっ!?」」」
よしよし、これでいい。そういや、虎野たちは英雄になれなかったわけで、さぞかし不機嫌だろうから【隠蔽】で隠れて教室へ入るとするか。
見えない状態で教室へ着くと、バリケードが解かれて生徒たちは普通に集まっていたが、やはり連中はみんな不満そうな顔をしていた。
「ふむ……何が仮面の英雄だ。俺様のほうが断然強い。そうだろう? 本当に強いのは手段を選ばず、なんのためらいもなく人を殺せるやつだからだ」
「ボスウ、おいらもそう思うぜ。ヒーローごっこしてる幼稚な仮面の英雄なんてよ、今すぐにでもナイフでズタズタにしてやりてえんだよお」
「ホント、虎君と近藤君の言う通り、何が仮面の英雄よ。ダサッ、キモッ。ただ単に強いスキルに恵まれただけでしょ。後ろから奇襲とか、恋人を人質に取るとかしちゃえばイチコロなんじゃない?」
「浅井さん、俺もそう思うぜ……。俺なら、ボスが言うように生徒どもを盾にして、最後のほうで弱ったモンスターをぶちのめす。そのほうが食料問題も一気に解決できるしよ……」
「まったくです。学校には人が多すぎるから、もっと減らすべきでした。すなわち、仮面の英雄は無能確定です。ウヒャヒャッ!」
「…………」
最後まで隠れてたくせに好き放題言いやがって。それにしても、影山が言っていた食料問題という言葉が妙に気になった。これは一体どういうことだ? あれだけ大量に配布されていた食料が、たった数日でなくなるとは到底思えないんだが……。
「というかだ、如月のやつはどこへ行ったのだ?」
「旧校舎のほうじゃねえ? ボスウ」
「じゃあ、間抜けな如月君のことだし、今頃焼け死んでるかも?」
「クソ優斗はのろまだし、ありうる……」
「だとしたら、火葬する手間が省けましたねえ」
「「「「「ギャハハッ!」」」」」
「…………」
俺は爆笑している連中の前に現れてやった。
「やあ、みんな、おはよう」
「「「「「っ!?」」」」」
「ん? どこにいたのかって顔だね。俺はみんながバリケードを作ってコソコソと子ネズミみたいに隠れてたこの教室にいたんだよ。知らなかった?」
「「「「「……」」」」」
隠れていたことをバラされて周りから失笑が上がる中、やつらは見る見る顔を赤く染めていく。こりゃ相当怒ってるな。
もちろん『クール』+『ラージスモール』で激怒状態を抑えてやったから、怒りたくても怒れないだろう。しばらくしたら、『ディスペル』で戻してまたイライラさせてやるとしよう。
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