二六話


『え、えっと……生徒の皆さま、遅れて申し訳ありません、寝坊しちゃいました……てへっ』


 おっ……かなり遅れて天の声がしたと思ったら、寝坊しちゃったんだな、納得。


 まあ昨晩はモンスターが攻めてきたわけで、学校中が混乱したせいで遅くまで起きてたんだろうし仕方ないか。俺たちを召喚したこの人も、多分どこかで救世主を探し回ってたはずだし。


『昨夜、仮面をつけて学校を救ってくださった方、本当にありがとうございます! とっても素敵でしたっ……! それと、この方のように勇敢に戦い、消火作業に協力してくださった方々にも、深く感謝いたします!』


「…………」


 いやー、照れちゃうな。天の声の人にも見られてたか。


「「「「「ぐぐっ……」」」」」


 不良グループのほうをちらっと一瞥すると、連中が嫌いな仮面の英雄が褒められたせいか、揃って顔をしかめていて今にもブチキレ寸前といった感じだった。


『これからも、この学校を何かが襲ってくる気配があればお知らせいたします。ところで、現在不足していると思われる食料については、近いうちに補充を考えておりますが、そんなに沢山あるわけではないので、どうか節約をお願いしますねっ!』


 ん、天の声も食料について言及してきたな。どうやら影山の言っていたことは本当だったらしい。


 というか、前回食料が配布されてそんなに間がないのにそんな状況になってるってことは、学校にいる誰かが独り占めしてるってことだよな。よーし、いっちょ調べてみるか。


 ってなわけで、俺は【隠蔽】スキルを自身に使い、自分のところ以外の新校舎の教室や職員室を見て回ることにした。


「――うう、お腹すいた……」


「……め、飯が欲しい。誰か、一口だけでもいいから、恵んでくれ……」


「……はあ、死にそう……もうダメかも……」


 そこでわかったのは、まともに食べてないのか顔色が悪くて元気のない生徒がかなり多かったということ。


 姿を隠したまま職員室に入ると、一人の女子生徒が教師たちに向かって食べ物について相談している様子。


「お願いです、具合が悪くなっている人もいるので、少しだけ恵んでもらえないでしょうか……!?」


 中々立派な生徒もいるもんだなあ……って、このお下げ髪の女の子、どっかで見たことがあるような。気のせいだろうか。


「ダメだダメだっ! 帰れっ! 私たちを飢え死にさせるつもりか!?」


「そうだぞ、分をわきまえたまえ。たかが生徒が」


「そうよ。大体、こっちが飢え死にする可能性だってあるんだから、自分たちでなんとかしなさい」


 おいおい。反田を筆頭にしたクズ教師陣に一蹴されてて俺はドン引きした。


 もちろん『タライ』+『ラージスモール』で大きめのタライを落として制裁してやったが。


「「「「「ぶへっ!?」」」」」


 特に反田は怒っていて、『悪戯した生徒はどこにいる、出てこい、殺してやる』と怒鳴っていた。教師が言っていいことか? いずれはお前の遺影を作ってやるよ。


 さて、食糧不足になっているのは明らかってことでなんとかしないとな。


 正直、そこまでやる気があるわけじゃないんだが、これをスルーするなら仮面の英雄というよりもだ。ただ、悪というのは常に存在するはずだし、細かいものまで潰してもきりがない。


 ってなわけで、俺は聞き込みする無駄を省くため、【魔法作成】スキルによって『ガイド』という魔法を作り出して使用し、食料を独占している大悪党がどこにいるのか案内してもらうことに。


 お、早速矢印が出てきたから、こっちに進めばいいんだな。犯人を見つけたら、独り占めした理由を直接問いただしたあとで始末するつもりなので、俺は【隠蔽】スキルを解除しておいた。

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