一〇三話


 俺はまず、虎野への復讐の手始めとして『ボディチェンジ』で影山に成りすますことに。


「――うわっ……」


 一応トイレの鏡で確認してみたら、紛れもなく影山になっていたので思わず声が出てしまった。


 存在感があるようでまったくない亡霊のような感じとか、蛇みたいに絡み付いてくるような目つきとか、吐き気がするくらいやつにそっくりだったんだ。


 それから【隠蔽】で自身の姿を暗ますと、あらかじめしたためておいた手紙を虎野の机の上に置いた。その内容とは、これからおよそ一時間後の午前十時に、浅井六花を賭けて屋上で決闘しようというものだ。


 念には念を入れて、『ハンドライティング』という新魔法を使ってやつの筆跡も真似ているので、別人のものだとは絶対にバレない自信がある。


 ちなみに、今すぐではなく少し時間を置くのは準備するためで、野次馬や乱入者等、決闘の邪魔になる要素を排除する手間が必要だからだ。


 さて、手紙を見た連中の反応を窺ってみるとしよう。


「――ふむ……お前たち、この手紙を見てみろ、影山からだ。六花を賭けて俺様と決闘がしたいんだと」


「マジだあ、こんなミミズが這ったみたいなヘッタクソな字、影山しか書けねえし間違いねえぜ。あいつ、野垂れ死にでもしたのかって思ってたら生きてたのかあ。ボスと決闘って、ププッ……あんな雑魚が勝てるなんて本気で思ってんのかよお!」


「ホントだー。影山君が失踪したのって、もしかして決闘する準備のため? なんか超キモくない? 誰も期待してないっていうか、あんな陰キャが虎君に勝てるわけないのにー」


「「「アハハッ!」」」


「…………」


 影山もこいつらの中じゃ陰キャ認定されてたんだな。ヤク〇の子だから黙っていたってだけで、そうじゃなかったら俺や永川みたいにいじめられてた可能性が高そうだ。


「まあ、決闘を申し込まれた以上、死ぬまでとことん可愛がってやるつもりだが、もしかすると影山の側には永川もいるかもしれんな」


「あー、ボスウ、おいらもなんかそんな気がするぜ。やつも急にいなくなったしよお、裏で結託してるってのはありえそうだあ」


「それって、下剋上とかクーデターみたいなもん? ついでに間抜けな如月君も味方にしちゃえばいいのにね。雑魚同士が組んでもぜんっぜん怖くないけど」


「「「ワハハッ!」」」


 永川も味方に加わってるってことにされてしまった。そうだな……影山同様に本物じゃないが、あいつも登場するような賑やかな展開にしてやるか。


 ただ、処刑する際には恒例になってるネタバラシもしなきゃいけないと思うし、近藤と浅井にそれを知られるわけにはいかない。


 ってことで、俺は虎野たちが教室を出る直前、『スリープ』で浅井と近藤を眠らせ、二人の『アバター』を作って『コントロール』で虎野の後をつけさせることに。よしよし、気付いてないな。


 眠った二人については、潔癖症の人間が気絶するほど汚いことでも知られる旧校舎の玄関前トイレにでも閉じ込めておこう。ついでに掃除する意味合いでも、散乱した糞尿を『タライ』とセットで【ダストボックス】に捨てたあと、すぐに取り出して連中の頭の上に降らせておく。


 さて、俺は一足先に『ワープ』で屋上まで飛んで準備を始めるとしようか。


 見てろ……虎野竜二。お前が裸の王様だってことを近いうちに証明してやるし、永川や影山以上の生き地獄をこれでもかと味わってもらうからなあ……。

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