四二話


「チクショー!」


「「「「「とっとと来い! 泥棒め!」」」」」


 盗人が村の治安部隊に連行される中、俺はハンマーの所有者に頭を下げられていた。


「この度は、誠にありがとうございます! おかげで大事なハンマーを取り戻せました!」


「よかったよかった。これからは周りに気をつけるように」


「はい!」


「マジ、ユートはすげーな。異次元の中を探してくるとか……」


「ユートったら、凄すぎだよお……」


「まさしく、神業じゃ……」


「ありえないわね……」


「ははっ……」


 まあ異次元の中で探し当てたというのは嘘じゃないからな。


「それにしても、こりゃ凄いハンマーじゃのお……」


 ん、キーンが例のハンマーをうっとりと見つめてる。彼は【鍛冶師】スキル持ちだし、その良さがわかるんだろう。


「あ、良かったら少し貸しましょうか?」


「良いのか!? 是非頼む! というわけじゃ、おい、ファグ、逃げるな!」


「ぐっ……」


 なんだ? リーダーのファグが苦い顔で後ずさりしていた。


「だ、だってよー、キーンには俺の装備、幾つも破壊されてきてんだから……」


「このハンマーなら大丈夫だから、とっととわしに貸すんじゃ!」


「……だ、だけどよ……」


「折れたとしても、お前さんのはしょぼい装備なんだから大丈夫じゃろ!」


「ちょっ……」


 ファグが渋々といった様子でキーンに剣と盾と鎧を差し出す。確か、彼の持っている装備は既に精錬値がそこそこあったような。これ以上精錬すると危険そうだが、果たして大丈夫なのか? とか心配する暇もなく、キーンが装備を叩き始めた。


「うおりゃっ!」


 カンカン……お、いい感じだ。今のところ折れてない。


「――よしっ! 三つともマックスの10までいったぞい!」


「「「「「おおおぉっ!」」」」」


 ハンマーを貸してくれた人も含めて歓声が上がる。こりゃ凄い。なんの変哲もない武具が一気に輝いた感じだ。【慧眼】で確認すると、精錬値が10になってから武具の攻撃力、防御力の数値が100くらい上がっていた。平凡な装備でも精錬でそれだけ変わるのか……。


「あ、そうだ。キーン、この武器も叩いてもらえないかな?」


「む? かまわんよ……って、こ、この短剣はっ……!」


 な、なんだ? キーンが飛び出るほど目玉を大きくした。


「あの伝説の絶影剣ではないかあぁっ……!」


「「「「「ええぇぇっ!?」」」」」


 みんな騒いでる。これ、そんなに凄いものだったのか……。


「ただ、あまりにも古いせいで劣化してしまっとる。この最高品質のハンマーであれば、叩けば叩くほど本来の力が発揮されるはずじゃ」


「へえ……それじゃあ、是非よろしく」


 だから???のマークが出てたんだな。


「ただ、10までやるなら壊れる可能性もある。絶影剣は絶対に壊れない武器として知られておるが、それは武器として使用する場合であって、精錬となれば話は別じゃ。それでもいいのかの?」


「も、もちろん」


 それを聞いて少しためらいはあったが、俺には【ダストボックス】や【魔法作成】っていうチートスキルもあるし、壊れても問題ない。多分……。


「それでは、行くぞいっ!」


「「「「「……」」」」」


 俺たちの視線がこれでもかと注がれる中、キーンが絶影剣を叩き始める。カンカンカンカンと小気味よい音が立て続けに響き渡ったのち、ハンマーの動きが止まった。終わった?


「これで9じゃ。次はいよいよ10……」


「「「「「っ!?」」」」」


 おいおい、緊張するじゃないか……。


「それえええぇっ! もういっちょおおおぉっ!」


「…………」


 俺は思わず目を瞑った。どうか成功しますように……って、あれ? なんの反応もない。もしかして失敗しちゃった……? でも、ここまでやってくれたんだしな。失敗しても笑顔で対応しよう。


 そう思いつつ恐る恐る目を開けると、この上なく輝きを放つ剣がキーンの手元にあった。


「成功じゃああああああっ!」


「「「「「おおおおおぉぉっ!」」」」」


 俺を含めた、この日一番の歓声が周囲に響き渡った……。

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