五五話


 俺は【ダストボックス】を出ると、『ワープ』で2年1組の教室前へ飛んだ。


 もう朝の8時頃だから天の声が聞こえてくるかもしれないし、不良グループの様子を確認したかったからだ。それにもう『アバター』も消えてる頃だろう。


 ――お、いるいる。虎野たちに加えて、珍しくみんな揃っていた上にクソ教師の反田までいた。あれか、今日はいよいよオークデビルの大群が攻めてくるってことで、最後の顔見せみたいなものかもしれない。


「来たか、如月優斗。これから君に関するがあるから座りなさい」


「「「「「……」」」」」


 反田の言葉で、クラスメイトたちの視線がこっちに注がれるのがわかる。


 自分に関する大事な話って……まさか、今までいじめたことを謝罪するつもりじゃないだろうな? もしそうだったとしても許すわけがないんだが。


 俺が席に座ってからほどなくして、反田が神妙な顔で語り始めた。


「では、話の続きだ。仮面の英雄のような勇敢に戦っている者がいる一方で、如月優斗みたいな臆病かつ狡賢い生徒はコソコソ逃げ回ることで生き残るものだが、その命運も今日までだろう」


「「「「「どっ……!」」」」」


「…………」


 よかった、心底安堵した。いつもの反田だった。


「というわけなのであるから、いつもの儀式をやるぞ。今日は如月優斗が本当に死亡するであろう特別な日なのでね、私が作った遺影つきだ」


 反田がニヤリと笑って俺の遺影を黒板に飾ってみせると、周りから次々と失笑が上がる。


 さすがに問題行動だってわかるのか、やつが教室に遺影を持ってくること自体少ないんだが、異世界に来たからもう遠慮はいらないってわけか。


「如月優斗、悪く思うな。以前にも説明したように、これはお前の捻じ曲がった人格を矯正、すなわち昇天させるための儀式なのだよ。それに、今日に関しては本当の意味での葬式という意味合いも兼ねている。それでは、合掌!」


「「「「「南無阿弥陀仏……」」」」」


「くたばっちまえー」


「アーメン♪」


「「「「「ギャハハッ!」」」」」


「…………」


 こいつら……現実逃避ってやつか? 俺がいなかったら今頃学校がどうなってたか。恩知らずもいいところだ。さて、不良グループの反応も見てみるか。


「ふむ。やはり如月は異世界でも相変わらずだな」


「ププッ……いじめられるようなゴミは、異世界でもいじめられるってことだなあ!」


「キャハハッ! ホント、滑稽よね。でも、なんか超和むー」


「マジで浅井さんの言う通りだわ……。クソ優斗の葬式が始まって、やっと戻ってきたって感じだよな、俺たちのかけがえのない日常が……」


「まったくです。如月なんて最早人間ではないだけに、葬式をやってもらえるだけありがたく思ってほしいものですねえ。アヒャヒャ!」


「…………」


 反田も含めて、2年1組の連中は助ける価値がまったくない連中だと改めて思い知ったわけだが、モンスターの襲撃で死なれたら困るし方針を変えるつもりはない。復讐のためにお前たちを守り抜いてやる。


 ただ、さすがにむかついたので俺は自身に『セーフティバリアー』を張りつつ、『タライ』&『レイン』&『ダスト』のトリプルコンボ+『ラージスモール』による全体攻撃をお見舞いしてやった。『レイン』を先にやるとさすがに条件反射で避けられそうだしな。


「「「「「ぶへえっ……!? げほっ、げほっ……!」」」」」


 反田を含め、みんなびしょ濡れになりつつ咳き込んでいた。ざまあないな。


『ナイスッ――っと、失礼いたしましたっ! 皆さまにお知らせがあります!』


 ん、ナイス……? 天の声の人、直前まで誰かを応援でもしてたんだろうか? まあいいや、ニュースの続きを聞こう。


『本日はいよいよ、オークデビルの群れが攻めてくる日です。なので皆さま、どうかお気をつけください。それと、こういう困難な状況で助け合うことができないどころか、誰かを寄ってたかっていじめるような人たちは、最低すぎると思います。仮面の英雄さまにチクっちゃいますよ?』


「「「「「……」」」」」


 天の声の人から説教まで食らって、教室になんとも気まずい空気が流れる。いいぞ、もっと言ってやれ。まあ仮面の英雄には既にバレてるんだけどな。だからもう、お前たちに明るい未来は決して訪れないってことだ……。

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