一五七話
「俺のステータスを覗いてみろ、エスティア」
「は……? 何をたわけたことを抜かすか。お前如きの実力など、もうとっくにわかっている」
「いいから、騙されたと思って」
「……まあ別に構わんが、覗いてる間に逃げようなどと企んでも無駄だぞ……って、な、な、なななっ……!?」
エスティアは動揺を隠そうともせず、目を見開いて俺から大きく後退していった。そりゃそうか。本物のステータスを覗いてしまったらこんな反応にもなる。
「ばっ、化け物か……」
「どうだ、降参するか?」
俺の台詞に対し、エスティアが首を横に振ったかと思うと笑みを浮かべてきた。おいおい、これを見た上でもやるつもりなのか。
「ユートよ、お前のステータスを見てわたくしは確信した……」
「は?」
「そのありえないほどずば抜けたステータスこそが、お前の力がまやかしであることの何よりの証だとなっ!」
「はあ……」
エスティアって凄く負けず嫌いな子なんだろうなと思いつつ、俺は仕方なく付き合ってやることに。とはいえ、本気を出したら死んでしまうので手加減しながらだ。
こういう勝気な相手を従わせるには、いきなり心をへし折るよりも徐々にやったほうが効果的だろうしな。
わけがわからないまま一発で仕留めると、偶然やられただけだと思われる可能性もあるからだ。それに、自分の無力感というものを嫌というほど思い知らせることができれば彼女自身の成長にも繋がる……って、《教育者》の称号があるせいか妙に達観しちゃってるな。
「ぐっ……ぐぬうぅっ! な、何故なのだ、なにゆえ、わたくしの攻撃が通じぬっ……!?」
エスティアの顔には明らかな焦りが見られた。何をやっても俺には通じないんだから当然ではある。さて、充分力の差はわかったはずで、あんまり屈辱を浴びせ続けるのも酷だからそろそろ終わらせてやるか――
――この活きのいい獲物を食らい尽くせ。一刻も早く、こやつの新鮮な血を、臓を、悲鳴を浴びるがよい……。
「…………」
内側から例のどす黒い声が聞こえてきた途端、俺は意識が朦朧としてくるのがわかった。こ、これはまずい。今にも力が暴走しそうだ……。
「――ぐああぁっ……!」
「はっ……」
気が付けば、俺は遠くの壁に背中から激突したエスティアを見ることになった。鍔迫り合いの最中、本気ではないとはいえ、かなり力を入れてしまったことであそこまで突き飛ばしてしまったんだ。
「う、う……うおおおおおおぉぉっ!」
「「もうやめてっ!」」
プリンとホルンの悲鳴がこだます中、エスティアに対して絶影剣を振り下ろす直前、ようやく自分を制御することができた。
「……はぁ、はぁ……」
「……あ、あぐっ……ぐすっ……」
座り込んだエスティアが泣き崩れる姿を、俺はしばらく呆然と見下ろしたのち、おもむろに彼女から距離を取った。後ろから自分たちを呼ぶ声と足音が近付いてくる。
「これも全部、エスティア、あなたがユートを怒らせるから悪いの!」
「うむ。それがしもエスティアの悪態には眉をひそめていた。ユートどのが怒るのも無理はない」
プリンとホルンの口振りから察するに、俺がエスティアの挑発行為に激怒して強い制裁を加えたと解釈されたらしい。
「……も、も、も、申し訳ありませんでした、ユートさま……」
エスティアが涙ぐみながらひざまずいてきて、俺は安心させるべく微笑んでみせた。
「ちょっと本気を出してしまった。悪かったな。もういいから立ってくれ」
「あ、あ、ありがたき幸せ……」
エスティア、顔が紅潮してるな。まあ無理もない。暴走しかけた俺に殺されかけたんだから。プリンとホルンがヒソヒソと『ライバルが増えた』とか言い合ってるがなんのことやら……。
「ユ、ユートさまは、相手を油断させるために弱い振りをしておられたのですね……」
「……ん-、まあそれはあるかな。警戒されたら困るし……」
それにしても危なかった。直前で制御できたからいいものの、もう少しでエスティアを殺してしまうところだった。
自分の中に何かがいるなんて不気味だし想像もしたくないが、今回の件でその可能性があるってことも頭に入れておく必要がありそうだな……。
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