一五六話
「では、ユートどの、エスティア、二人とも準備はよろしいだろうか?」
「ああ、オーケーだ」
「……なっ……」
「エスティア、どうしたのだ?」
「あっ……ホ、ホルンさま、失敬……しょ、少々、お待ちを……」
エスティアの言動には、明らかな動揺が見られた。それもそのはずで、彼女には例の『マインズアイ』っていう他者のステータスを見られるテクニックがあるから、俺の『アバター』が一気に強化されたことで面食らってる格好なんだろう。
さあ、ここからどう出るかな……ん、やつは一転して余裕の表情を浮かべたのち、またしても耳打ちしてきた。俺には聞こえなかったが『以心伝心』があるので問題ない。
『これは驚いた……。ユートとやら、どこにそんな力を隠し持っていたのか。一時的にであれ、それがプリンさまとホルンさまの目を今まで欺けていた理由か。だが、その程度ではわたくしには勝てませぬ』
俺の分身が密かにこんなことを言われていたのがわかった。ステータスではこっちが圧倒しているというのに結構な余裕じゃないか。それなら見せてもらおう。『厳格教育』した分身を凌駕できるほどのエスティアの実力とやらを。
「コホンッ……。では、改めて準備はよろしいか、エスティア?」
「大丈夫です、ホルンさま」
「では、そろそろ始めようと思うのであります。それがしが10秒数えてからということで」
ホルンがそう言いつつ、俺の分身とエスティアから距離を取り、いよいよカウントダウンが始まった。大丈夫だとは思うが、一応『アバター』に『テレパシー』で『命令』しとくか。
『ステータスはお前のほうが断然上なんだから、深追いせずにじわじわ攻めればいい』
『了解した』
分身の返答からまもなく、ホルンの口がゼロと発したことで二人のバトルが始まった。
「はああぁっ!」
「…………」
エスティアは気合充分で、俺の『アバター』は至極淡々とした、なんとも対照的な立ち上がりを披露する。当然ではあるんだが、なんというか自分の分身と他人の戦いをこうして傍から見るのは凄く不思議な気分だ。
肝心の戦況はどうなってるかというと、今のところどっちも攻め手に欠けていて膠着状態が続いている感じだった。
「ユート、頑張ってなのーっ!」
「ユートどの、応援しているでありますっ!」
「あぁ、ありがとう」
プリンとホルンの声援に分身が応えたあと、エスティアの表情が明らかに変化するのが見て取れた。これは、今の発言にかなりピキッてるみたいだな……。
「ユートとやら、お前の化けの皮、プリンさまとホルンさまの手前、必ずや剥がしてみせる……!」
なるほど。この口振りから察するにエスティアはあの二人から歓心を得たいようだ。俺の分身を見事に打ち負かしたのち、代わりに武闘大会にエントリーする腹積もりなんだろう。
「はあああぁっ!」
「っ……!?」
てっきり彼女の怒りが力みや焦りに繋がるかと思いきや、そうはならなかった。エスティアはまるで怒りによってパワーアップしたかのように俺の分身を追い詰め始めたのだ。
まさに電撃的な破壊力で突き飛ばしてくる『ライトニングバッシュ』や、防御と攻撃に加え芸術性を兼ね備えた『ファイヤーダンス』、鞭のように変則でしなってきて対処が難しい『ウォーターブレイド』、剣と体を一体化させた体当たり的な『ロックストライク』、偽の剣が時折見え隠れして目を欺く『ファントムソード』といったテクニックを巧みに織り交ぜ、俺の分身は防戦一方となった。
【慧眼】で『アバター』のHPを確認すると、2万くらいあったのがもう3000を切ってるし、このままじゃまずい。どうやら分身が戦うにしては相手が悪すぎたようだ。
そういうわけで、俺は分身に身を重ねるとともに『ディスペル』を使用して『アバター』と【隠蔽】状態を解除した。さあ、分身から本体に切り替わったわけだが、これでエスティアがどう出るのか見物だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます