九五話
真っ暗な洞窟内、俺は『ライティング』を使おうかとも思ったが、それだと目立つため『ナイトビジョン』という暗視魔法を作り、全員に使って歩き始めた。さらに『サイレント』で足音を消すという徹底ぶりだ。
中は幾重にも枝分かれしていて迷いやすい構造だったが、『ガイド』の魔法のおかげで村人がいる方向へサクサク進むことができた。
「「「「「――っ!?」」」」
ほどなくして何やら話し声が聞こえてきたので、俺たちは一斉に立ち止まった。そのタイミングで矢印が輝いてることもあり、ここからすぐ先に村人たちがいるのは間違いない。
「…………」
そっと壁から顔を出して覗き込んでみると、奥のほうで松明を手にした体格のいい男たちが、腹の出た商人らしき者と会話している様子だった。そのほとんどがゴロツキと断言してもいいくらい、なんとも厳つい顔をした連中だ。
「あ、あれは……かつて俺の仲間だったやつらだ……」
「「「「えぇ……?」」」」
ファグが意外なことを言うと思ったが、そういえば《ゴロツキ》っていう称号を持ってたっけか。
そうだな……俺たちは【隠蔽】で姿を隠しているわけだし、もう少し近付いて話を聞いてみるか。
「――だから、そんなんじゃダメだ。もっと弾んでくれや!」
「そうだそうだ! 奴隷として村人を全員売り飛ばそうってのに、たった金貨5枚ってなあ、舐めてんのか?」
「しかも、みんな俺たちの村のやつらだからな」
「そうそう。ガキや老人を含めて隠れてたやつらを見つけて、わざわざここまで引っ張ってきたんだからよ、最低でも金貨10枚分くらいの価値はあるだろうがっ!?」
なるほど。村人を奴隷として商人に売っている最中ってわけか。それも同郷の人たちなのに……。極悪非道とはまさにこのことだな。
「わかったわかった、そう興奮しなさんな。確かに、こちらとしてはそこまで働いてくれる存在はありがたいし無下にはしたくないが、あまり値を吊り上げるようなら、この件はなかったことにしても――」
「――いや、待ってくれ! だったら金貨7枚でもいい!」
「……ふん。まあ、悪くない。いいだろう」
どうやら悪党同士で交渉がまとまったようだが、こんな場面を目の当たりにして見逃すわけがない……って、ファグが耳打ちしてきた。
「ユート、頼む。この件は俺に任せてくれないか?」
「ファグ……大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、ユート。俺だけ見えない状態を解除してくれ」
「あぁ、わかった」
彼の言う通り、【隠蔽】を解除した直後だった。姿を見せたファグが颯爽と商人の背後に駆け寄り、斧を振り下ろしてみせたのだ。
「ぐああぁっ!」
これにはさすがの商人でもひとたまりもない様子で、たった一撃で仕留められた。そうだ、すっかり忘れてたが、ファグたちはS級冒険者なんだよな……。
「「「「「な、なんだっ!?」」」」」
「お前ら、もうこんなことはやめろっ!」
「誰だよ、てめえ、やっちまえ――」
「――いや、待て……おめー、ファグじゃねえか!」
「ちょっ、マジだ。元リーダーのファグさんだ!」
「ファグ兄貴、懐かしいなあ!」
「もう会えねえって思ってたぜ……」
「久々だなって言いたいところだけどよ……おい、お前らが何をしているか、わかってんのか!? こんなことはやめて、今すぐ村人たちをここから解放しろ!」
「「「「「……」」」」」
ならず者たちが、ファグの迫力にたじろいでいる。さすが、《ゴロツキ》という称号がついてる上、あいつらの元リーダーなだけあるな……。
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