一一〇話
どう考えても緊急事態だってことで、俺は『エリクシルヒール』+『ラージスモール』によって、ファグたちを一斉に起こした。いつもは俺が起こされるパターンだが、今回はその逆ってわけだ。
「「「「――ユート……?」」」」
「みんな、あれを見てくれ」
「「「「なっ……!?」」」」
例の様子を見せると、ファグたちの血相が変わった。
「あ、あれは……間違いねえ。商人ギルドの連中だ……」
「なんでわかるんだ、ファグ?」
「機能性を無視したお洒落な服装もそうだが、体型もよく見てみろ。普段から良いものを食いまくってるから太ってるしそれだけ金がある証拠だ。おそらく前回襲ってきたあの商人よりもランクは上だろうよ」
「なるほど。ってことはあいつよりも上なのか……」
トルネ――いや、オルネト以上ってことは、彼らは最低でもE級の商人たちってわけだな。
試しに【慧眼】で確認してみると、ファグの言う通りほとんどがE級の商人で構成されており、それぞれやたらと強いスキルを所持していた。オルネトのように、一発で村なんか消し飛ばせる破壊力に加え、防御の部分でも抜きんでていたんだ。
おっ、松明が動いたと思ったら、それは一つだけだった。どうやら連中のリーダーが何かを訴えに来るらしい。唯一D級の商人がいたので多分そいつだろう。
「――オッホン! おーい、聞こえるか、カスの村人どもっ!」
中でも一番恰幅のいい男が腹を揺らしながら叫んできた。なんかオルネトにそっくりなやつばかりだな。このままじゃ商人に対して偏見を持ちそうだ。
「吾輩の名はゴルーダ! ここで取引した商人が未だに帰ってこないゆえ、返してもらいに来た! もし無視すればこの村を焼き払う! 逃げようとした村人どもは、即刻あの世行きだと思えっ!」
「…………」
あのゴルーダとかいう野郎、無茶苦茶なことを要求してきやがった。
ただ、強気に見えてやつらがここまで群れているのはそれだけ恐れている証拠か。仲間の商人が帰ってこないことで、こっちに強敵がいることを想定してるのかもな。
「聞いているかっ!? この村に吾輩の仲間がいるのはわかっている! だから10分間だけ待ってやる! もし我々に何か危害を加えようとしたら、即座にこの村を滅ぼしてやるから覚悟しておくようにっ! 少しでもその兆候が見えればお前らは終わりだからなあっ!」
なるほど。そうなると結構厄介だな。あれだけ数がいる上、ああして囲むように散らばっているのは、何か都合の悪いことが起きたらすぐにわかるようにするためなんだろう。
となると、一人ずつ消すというわけにもいかないし、かといって全員殺せるくらい強烈な魔法を使えば村ごとやつらを潰してしまう。
『ストップ』あたりの状態異常系の魔法を使っても、魔法の発動を止めることはできない。やつらはそれを理解しているんだ。
「さあ、あと5分だぞっ!? 少しでもおかしな真似をしてみろっ! この村をお前らのしょうもない思い出ごと吹き飛ばしてやるっ!」
「ち、チックショウ、どうすりゃいいんだ……」
「このままじゃ、村の人たちが皆殺しになっちゃう。そんなの嫌だよお……」
「うぬう、困ったことになったわい。いくらユートでもこれは厳しいのう……」
「そうね。ユートならあいつらを倒せると思うけれど、村も滅ぼされちゃうだろうし……」
「…………」
ファグ、ミア、キーン、リズの嘆きの声が俺の耳を突く。
確かに商人たちのスキルの性能なら、俺が何かをしようした時点で村を滅ぼされる可能性が高い。
『セイフティバリアー』を村全体に引き延ばしたらその分効果が薄くなってしまうし、俺たちだけを守っても村は消滅してしまう。
【ダストボックス】に村ごと入れられるかどうか試したものの、やはりそれは現在のレベルでは収納枠の関係で不可能だった。
「――カスの村人どもっ! あと1分だぞっ! 覚悟はできているのかっ!?」
もうあまり時間がない。気付かれずにやつらを始末できる方法があれば――って、そうだ。こういうときにこそあれを使うべきなんだよ。
そういうわけで、俺は『アンサー』を使って質問した。
(どうすれば、一切気付かれることなくあの商人たちを倒せるか?)
(ポイズン)
ポイズン……? ってことは毒だよな。そうか、なるほど、その手があった。
早速、俺は商人たちに向かって『ポイズンエアー』という新魔法を作ると『ラージスモール』で拡大し、やつらに向かってゴルーダを中心として同時に使用した。これならただの空気にしか感じられないし、異変に気付きにくいはずだ。
「「「「「――うっ……!?」」」」」
よしよし……カスの商人どもは、はっとした顔をしたときにはもう毒が体中に回ったらしく一斉に倒れて動かなくなった。
「「「「「おおおぉぉっ!」」」」」
俺たちを含む村の人々の歓声が響き渡る。これでファグとミアの故郷は守られた……。
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