一〇九話
「ヒナ、大切な話って……?」
「…………」
痛いほどに静寂で彩られた旧校舎の教室にて、俺は天の声の主であるヒナと向かい合っていた。
大事な話がしたいっていう手紙をよこしてきたので約束の日時に向かった格好だが、彼女は言葉を忘れてしまったかのようにずっと気まずそうな顔で項垂れていた。
「ヒナ……?」
「……ご、ごめんなさい。私がこういうことを話すのは、ユートさんが初めてなので……」
まもなく覚悟を決めたのか、ヒナは強い表情で俺を見上げてきた。
「驚かないでくださいね。実は私……人間じゃありません。化け物なんです……」
「……え、ええぇっ……!? 化け物って……じょ、冗談だよね?」
「……それが、本当なんですよ。てへっ……」
「っ!?」
ヒナの照れ臭そうな笑顔がぐにゃりと歪んだかと思うと、見覚えのある人物に変身した。こ、これは……。そこにいたのは、紛れもなく神級モンスターのジルだった。
「……な、なんで……どうして……」
「また会ったな……。どれ、お前の中にいる化け物を覗いてやるとしよう。ん-……ダメだこいつ、全然成長していない……」
「ちょっ……」
「確か前にも言ったはずだが? 次に会ったときまでに、お前の中にいる化け物が成長していないと感じたら殺す、と。そういうわけだから、覚悟はできているだろうな……」
「そ、そんな……。待ってくれ。いくらなんでも早すぎる。前回からそんなに時間は経ってないのに――」
「――問答無用だ。死ぬがいい」
「うっ、うわああぁぁっ!」
俺は叫び声を上げたわけだが、まもなくそこが【ダストボックス】の中だと気付いた。
な、なんだ、夢だったのか。よかった……。
「んんっ……ユートしゃまぁっ……」
「んひゅ……もひゃぁっ……」
「…………」
気付けばラビとモコが俺に覆い被さっていた。そりゃ圧迫感を覚えてあんな恐ろしい夢を見るわけだな……。
時計を確認してみると、深夜の二時を回ったところだった。いわゆる丑三つ時ってやつだ。不吉な時間帯だからなのか、やたらと胸騒ぎがする。
もしかして、ヒナもジルと同じ神級モンスターなんだろうか? でもそれなら俺より遥かに強力な能力を有してると思うし、救世主候補なんて探さずに自分でなんとかできるだろうしなあ。
俺は試しに『アンサー』を使って、ヒナが神級モンスターなのか訊ねてみようかと思ったが、本人に直接聞けばわかることだし、彼女にも失礼な気がするのでやめておいた。
「あっ……」
思わず声が出る。ファグたちのほうの分身に何かあったみたいだ。嫌な予感が当たった格好かもしれないが、果たして何があったのやら。
俺はラビたちに人型の枕を抱き付かせると、ファグたちのところへ飛ぶことにした。
「「「「……」」」」
村の宿では、みんなすっかり寝静まっていた。酒瓶がファグを中心に沢山転がってることから、直前まで酒盛りしてたっぽいな。何気に俺の分身まで赤くなってるし濡れてるしで、酔っ払った誰かが酒を浴びせたっぽい。
それでも異常を知らせてきたってことは何かあるんじゃないかと思ったとき、外が妙に明るいことに気付いた俺は、窓から外の様子をそっと窺ってみる。
「なっ……」
俺は自分の目を疑った。この村は松明を手にした集団によってすっかり囲まれていたからだ。な、なんだ? もしかして、やつらがファグの言う商人ギルドの連中なのか……?
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