一一一話
「「「「「ごきげんよう……!」」」」」
翌朝のこと、俺たちは村人たちの声に背中を押される形で出発した。こうして見ると50人くらいしかいないんだな。
見送られる際、ファグとミアが何度も手を振り返す姿が印象的だった。次に戻ったときはもう滅んでるかもしれないと思うとやるせない気持ちになる。
ただ、この村を養分にしていた商人どもは殲滅したし、残党がいたとしても何かあったらすぐ逃げるようにとファグが念を押したので大丈夫だと思いたい。
あと、この件で《商人殺し》という称号を頂いてしまった。俺や味方の商人に対する攻撃力、防御力、威圧感が増すらしいから、仮に残党に襲われても村人が俺たちの名前を出せば逃げるための時間を稼げるかもしれない。
「――ユート、ミア、キーン、リズ……こっから先にはよ、一度も足を踏み入れたことがねえ未知の世界が広がってる。何が起きるのか、これまで以上に読めねえから気をつけてくれ」
しばらく経ったのち、リーダーのファグがそう重々しく宣言する。それだけエルの都へ近付いているってことの証なんだろう。
「怖いけど、僕たちには《最強の傭兵》がいるから……」
「うむ。とんでもないバケモンがな」
「それも、神級並みのね……」
「おいおい……」
《最強の傭兵》なんていう称号も獲得してしまった。調べてみると、俺の側にいる味方のHPが2000も上がる効果らしいから助かる。
「ファグ、キーン、リズ、俺はもう仲間だって言っただろ?」
「そうだけどよ、ユート。こっちはまだ仲間だっていえるほど強くねえからな」
「うんうん。正式な仲間だからってユートに甘えたくないしねっ」
「そうじゃそうじゃ。傭兵のままならいつ去られるかっていう、そういう緊張感があるから燃えるんじゃよ」
「緊張感があるほうがいいなんて、いかにも《精錬狂》のキーンらしい発想ね」
「うむ。だから毛根まで燃え尽きたんじゃろ……」
「「「「「アハハッ!」」」」」
オチもついたところで、俺は2年1組の教室へ行くために欠伸すると、いつものように隠れて『アバター』を作り教室へと飛んだ。
というのも、そこにいる分身になんらかの事変が生じたからだ。おそらく天の声が聞こえてきたんだろう。教室の空気に触れただけでもそれだとわかるようになった。
『その悪いお知らせというのは――』
お、やはりそうだった。今日はバッドニュースか。
『――例の敵についてですが、もう学校内にいるかもしれないんです……』
な、なんだって? 敵が迫っているとかじゃなくて、もういるかもしれないだと……? そりゃ大変だ。
『皆さま、どうか慌てずに落ち着いて行動なさってください。近付いているはずの敵の動きがまったく見られなくなったので、その可能性もあるということですので……。これも私の力量不足です。ごめんなさい……』
「…………」
ヒナ、落ち込んでるな……。変な夢の中では彼女の正体が神級モンスターのジルだったが、こういうところに触れると人間っぽくてとてもじゃないがモンスターには見えない。
「だそうだ。お前たち、落ち着くように」
担任の反田がキリッとした顔で補足してみせた。こいつ、虎野が鶏野になってから露骨に調子に乗り始めたな。やっぱり、やつにとって校長の息子がいなくなったってことは相当に大きかったか。
「ンアッ……イイッ、近藤君……」
「うおぉっ、六花あ、イキそうだぜえっ……!」
畜生どもは相変わらずだな。数が減ってイキらなくなったと思ったら、いかがわしい行為でイキかけてるんだから。
「コケエェーッ!」
「ぶはっ!?」
お、鶏野がいつもの如く騒いで、羽や糞を撒き散らしたもんだから反田が咳き込んでる。そこに乗じて『ミスチーフ』の魔法の一つ、『ダスト』も使っておこう。
「グホォッ、ブヘェッ……! こっ、こんのクソチキンめがーっ!」
「ギョエーッ!」
反田のレイピアで激しく突かれ、鶏野が悲鳴を上げると教室は笑い声に包まれた。まったく、このクラスの連中は呑気なもんだ。
もしヒナの言うように正体不明の敵が既に学校内にいるとしたら、それを確認する方法がある。最近よく使ってる『アンサー』の魔法だ。さあ、果たして本当にもう侵入しているのか、これではっきりするはずだ……。
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